【スキーマ療法入門】:認知行動療法の「一つの発展形=スキーマ療法」がよく分かる良書! -おすすめの心理療法本のご紹介-
心理療法において、極めて大きな位置を占めている認知行動療法。
この認知行動療法の一種の発展形として【スキーマ療法】という心理療法があります。
認知行動療法と比べ、それ程著名ではないかも知れませんね。
けれども、とても興味深い心理療法だな、と思います。
今回は、この【スキーマ療法】について、伊藤絵美氏らによって著されたとても分かりやすい良書「スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用」を元に、その内容をご紹介したいと思います。
さて、スキーマ療法とは?
アメリカの臨床心理学者(認知行動療法の経験が長い方です)であるジェフリー・ヤング氏が1990年代に提唱されました。
認知行動療法では、「自動思考」という、いわば日常での偏った思考や信念を対象とするのに対し、スキーマ療法では、より深いレベルにある「スキーマ=認知構造」に焦点を当てることが特徴です。
まあ、そうは言いながらも、両者の境界線をきっちりと区切ることは難しく、お互いがお互いの領域までを対象とはしていますけどね。主な対象領域の違いがある、といったところです。
もう少し「スキーマ」について詳しく説明します。
スキーマとは、自動思考の背景にある、その人なりの認知構造であり、その人なりの「ものの見方」「価値観」「信念」「思い込み」のことです。
私たちが生まれ、育ち、生きている間に学習し、その人にとって「当然のこと」として構造化された認知のことなのです。
このような「スキーマ」に気づき、解消していくことが、この心理療法で行われているのです。
スキーマ療法を提唱したジェフリー・ヤング氏が、認知行動療法経験が長かったということ、ヤング氏の本を翻訳・そして本書を執筆された(編著です)伊藤絵美氏も多くの認知行動療法本を執筆されている方であることから、本スキーマ療法の基本は認知行動療法にある、と言えます。
とは言え、認知行動療法を基本としながらも、アタッチメント(愛着理論)、ゲシュタルト療法、構造主義的な心理学(交流分析、家族療法)なども活用しながら、症状にアプローチしていくのです。
本療法で、面白いな、と思った視点として「スキーマ・モード」という概念があります。
これは、「今現在、その人において活性化されているスキーマ、およびスキーマの作用」のことで、チャイルド・モード、ヘルシーアダルト・モード、非機能的コーピング・モード、非機能的ペアレント・モードがあります。
これって、交流分析的な考え方だなぁと思います。
「今、ここの自分の状態」をモニタリングし、「今ここでの対処方法」を学ぶ、という重要で効果的な考え方を取り入れているのですね。
さて、そんな認知行動療法との違い=スキーマ療法の特徴として特筆できるのが・・
幼少期の体験を重視すること、つまり他者(特に養育者)との安全で受容的なアタッチメントが十分でないために生じた不適応的なスキーマなどに代表される、幼少期に形成されたスキーマに気づくことを重視しています。
具体的な方法としては、自分史というか、人生の棚卸しのようなことを行います。
治療的再構成法という治療関係を形成すること、つまり認知行動療法のような対等的治療同盟的関係だけでなく、養育者的な視点を持って関わるフェーズもあるということです。
他者との安全なアタッチメントの追体験といった視点があるのでしょうね。
また、伊藤氏のところでは、本治療によって治療終結まで2~5年かかるとあり、こんなに時間をかけられない、という声もあるかも知れません。
そんな場合、本療法の考え方を役立てる方法として、心理教育的アプローチ、スキーマモードアプローチのみの応用など、短期的なアプローチによる可能性などにも言及されており、良心的だな、とも思いました。
以上、極めて大まかにスキーマ療法について書かせて頂きました。
冒頭でご紹介した「スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用」では、療法の概略に加えて、事例についてもたっぷりと記載されており、極めて分かりやすい内容です。
スキーマ療法という名前にピンときた方はもちろん、認知行動療法にご興味をお持ちの方も一読されると良いと思います。