田舎のパン屋さんの哲学的な思索とライフスタイルが印象深い! 「田舎のパン屋が見つけた腐る経済」
今回は、「田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」」という本をご紹介させて頂きます。
この本の著者:渡邉格さんは、30歳で大学を卒業後、田舎や農と関わる仕事がしたくて農産物卸し販売会社に就職。そこで数々の理不尽に出会い、退職。パン屋を目指し修業するなかでも数々の不合理に出会います。
そのような紆余曲折を経て、無事にパン屋を開業していくという、一見よくある話のような感じがしますが・・・
実はこの本「田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」」は、そのような数々の理不尽や不合理に出会いもがき苦しむなか、
カール・マルクスやミヒャエル・エンデの思想と出会い、その着想を生かしながら田舎での個性的なパン屋を営むようになる、その過程(思考の過程と実践の記録)にこそ、大きな見所があるのです。
田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」
私は最初、このタイトルに触れたとき、
「腐る経済」? 何だそれは? 何を意味するのかが分かりませんでした。
が、読み進むうちに仰っていることが少しずつ分かってきました。
その意味を解き明かすには。
先述のマルクスとエンデを引用しなくてはなりません。
詳しくは書き切れませんので、その要旨を書かせて頂くと・・
かたちあるものは、いつか滅び、土へ還るのが自然界の抗しがたい法則。
けれども、おカネだけは腐ることはない。それどころか利潤さえ生みだし増えていく。おカネだけは腐らない異質なものであり、このおカネの不自然さこそが、社会に様々な問題をもたらせている。
一方、マルクスが喝破したように、資本主義経済においては、生産手段を持たない「労働者」は自分の労働力を売るしかない。
これに対して資本家は「労働力」を使ってモノを作り、労働者が働いて得る給料以上の価値を生み出し、利潤を上げている。
資本家は、より以上の利潤を得るために、(対価である給料を払っているので)労働者を長く働かせたり、生産効率を上げようとする。
著者は、農産物卸し販売会社や修業中のパン屋において、利潤や効率のために食の安全やトレーサビリティを軽視したり、長時間の過酷な労働に対峙することになり、資本の論理が支配する世界の「外」へ出ることを決意したのです。
さて、「腐る経済」とは。
腐らない経済、つまり腐らないおカネによって支配された資本の論理とは異なるやり方を追求するということです。
著者曰く、「腐らない」おカネの生み出す資本主義経済の矛盾を乗り超える道のことなのです。
具体的に言うと、
非効率であっても手間と人手をかけて丁寧にパンをつくり、利潤(儲け)とは訣別するという「パン屋のあり方」なのです。
行なわれていること自体は、「儲けを追求しない商いをする」ことと単純化することができるかもしれませんが、そこに至る思索の跡こそが、この本の肝だと思います。
さらに言うと、このような経済に関する考察にのみならず、
発酵に関する奥深い世界とか、パン職人という職業の大変さや、家庭生活の話、さらには驚愕の食品添加物表示に関する恐ろしい話など、盛りだくさんの内容が、極めてわかりやすい文体で書かれています。
よくこれだけの内容を整合的に盛り込めたものだと思うほどです。
さて、最後に。
渡邉さんが開店しているお店「タルマーリー」ですが・・・
何と今は、本書で書かれている岡山県の勝山にはなく、鳥取県の智頭町に移転されています。
店のスペースの都合上、自然素材を生かすための機械(製粉機)を設置できなかったり、カフェなど他の事業も行うため、やむを得ず移転されたそうです。
やりたいことが次から次へと現れてくる、ということもあるかも知れませんね。
勝山ほどではありませんが、私の家から智頭町はまあまあ近いので、いつか行ってみたいなぁと思います。
タルマーリーのホームページはこちらです。