大きなインパクトを与えた「地方消滅」という本について (読書備忘録)
本日は、刊行時にかなりの話題となった
「地方消滅」という本についてご紹介させて頂きます。
この本の表紙には「896の市町村が消える前に何をすべきか」
とセンセーショナルな文章が書いてあります。
これには補足が必要ですね。
順を追って説明させて頂きたく思います。
ご存じのとおり、日本では2008年をピークに人口が減少に転じています。
そしてこの、人口減少の1つの要素として「自然減」という側面があります。
こちらは合計特殊出生率で説明できる人口減です。
この「出生率に基づく人口予測」は、政治や経済の予測と比べて
著しく精度が高いと言われており、2013年の出生率は1.43です。
これは将来、日本の人口が現在の約7割になることを意味します。
(ちなみに人口を維持するには、2.07という値が必要です)
生まれる人が減れば、少子化が進み、高齢化が進みますが、
人口減少は、次の3つの段階を踏む、と言われています。
・第一段階:高齢者人口は増加し、生産・年少人口は減少。
・第二段階:高齢者人口はほぼ横ばい、生産・年少人口は減少。
・第三段階:高齢者人口、生産・年少人口とも減少。
現在、高齢者が増加している、と言われていますが、
段階が進むほど、高齢者も減少していく、という現象が見られます。
さてここで、次のお話が絡みます。
今の日本では、地域によって人口減少の段階が大きく異なるのです。
すなわち、地方では第二・第三段階に入り、高齢者も横ばい・減少している、
東京などではほぼ第一段階で高齢者が増え続けている(付け加えると、後述する
お話のように、年少者もほとんど減っていません)という状況なのです。
なぜこのような現象(地域差)が起きるかと言うと。
地方から大都会へ多くの人が移動したからです。
これが「社会減」という側面です。
多くの人は雇用機会(職)を求めて移動しました。
ちなみに、特に東京に一極集中する状況を指して「極点社会」と呼んでいます。
そして、タイトルにある「896の市町村が消滅する」の意味については
正確に言うと、主に子供を産む年齢である20~39歳の女性(子供を産むのは全て
がこの年齢の女性ではありません。念のため。)が、2010年から2040年までの
30年間で50%以下に減少する自治体(市町村)が896ある、ということです。
子供が生まれず、急激に人口が減少するだろう、と言われる自治体です。
これは全国の自治体の約半数にものぼります。
以上が、将来的な人口予測です。
自然減と社会減が複合して、
・当面、東京への一極集中という現象が起きる、
・地方では人口が激減する、
ということですね。
ここで「当面」と書いたのは、
地方の人口が減るということは、東京へ移動する人が減る、
すなわち、東京でも社会増数が減少する、ということです。
そうなると、時期は遅れますが、
東京でも少子化、高齢化、人口減が進みます。
さて今後の人口予測についてはここまでです。
もちろん、この本の中では解決策が提示されています。
一つは少子化対策、
もう一つは人口の都会への移動抑止策についてです。
キーワードは、コンパクトシティ、ワークライフバランス、福祉制度など
でしょうか。また、移動抑止策について一言で言うならば、
山間部も含めた全ての地域に人口減抑制のエネルギーをつぎ込むのではなく、
地方中核都市に資源を集中し、そこを最後の砦にして再生を図っていく、
ということのようです。
もちろん、これら提言については有用だと思います。
ただ一方で、これら対策が現代生活の延長線上にあるなあ、という観はあります。
都市生活を最上とするような価値観を変えること、
すなわち、自然、教養、文化、つながり(コミュニティ)、内面の充実・充足などを
基盤とした豊かなライフスタイルを至上の価値とするよう、
重点的に取り組んでいくことが大切ではないかと思います。
その際、政策だけに頼るのではなく、住民たちから動くことが大切です。
近未来の我々の環境が大きく変わることは間違いありません。
それらについて、現状を把握し、考えてみることが大切だと思います。