佐伯啓思名誉教授が語る「大転換-脱成長社会へ」(おすすめ本)
先日の水野和夫教授の本でも少し触れさせて頂いた
佐伯啓思名誉教授の著作にも触れさせて頂きたく思います。
その本は「大転換―脱成長社会へ」です。
佐伯氏はご自身のことをエコノミストではない、と仰います。
確かに、経済学に見られるような綺麗な数式を駆使されるのではなく、
多分に社会学や歴史学などの視点で多くの本を執筆されています。
私自身、佐伯氏のお話を聴かせて頂いたことがありますが、
まさに「博識」とはこのような方のことをいうのだな、と思うほど
多様な知識、視点をお持ちでした。
さて、この本における主張について。
タイトルとおり「脱成長への大転換」です。
この本は、リーマンショックに端を発した世界金融危機を踏まえ、
金融市場分析、アメリカ文明とグローバリズムについての考察、
ニヒリズムとアメリカ、構造改革とは、伝統的な経済学との対比、
など極めて多面的な視点から述べてあるため、
数行で要約するのはなかなか難しいですが・・・
まずは、現状分析、問題提起です。
・資本主義とは新たなフロンティアを求め、フロンティアに利潤を求める、
という運動である。
・資本主義における労働、土地(自然資源)、貨幣などの生産要素の
自由化、市場化は「社会的生」の土台を崩す可能性がある。
・技術主義、効率的管理、社会や文化の画一化・均一化を志向する
アメリカ文明が拡大(グローバル化)していくことで地域文化に影響を及ぼす。
要するに
資本主義という仕組みそのものが成長を志向するものであり、
社会的土台を崩しかねない要素を孕んでいる、
ということを言われています。
さて、そのためにはどうするか?
市場競争・成長中心からの転換=「脱成長への転換」ということですね。
社会基盤の整備、社会環境の確保、文化を守ることも大切だということです。
そのための方策に割かれたページは少なめです。
医療、教育、コミュニティ、信頼に基づく会社組織作り、環境、
生活物資の自給体制確立などが論点になるだろうとあります。
崩れつつあるコミュニティの再生、生活物資の自給体制の確立、
などの論点については、全くもってささやかですが、
私も幾つかの記事を書かせて頂きました。
上記の「脱成長の模索」自体は自明のこととし、
では具体的にどうすれば良いのか、の議論が活発になると良いですね。
最後に、佐伯氏の本はこれ以外にも多々あります。
本によっては、専門度の違い(?)により難易度の差が若干ありますが
おすすめしたいと思います。