「新しいヘーゲル」(長谷川宏氏):網羅性、総体性、体系性が魅力的なヘーゲルの入門書です! -哲学者たちのおすすめ入門書-
ヘーゲルは難しい?
いや、そんなことはない。
むしろ、日本に受け入れられるとき、とてつもなく難解なものとして変貌したのである。
明治維新以後の強い西洋崇拝が、西洋哲学そのものを「仰ぎみる、近づきがたい威厳をもった高みにあるもの」とし、分かりにくいものこそ権威あるものと位置付けたのだ、それでは学問的な理解と批判には繋がりにくいのだが・・・、と著者は言います。
これが本当のことならば、私も大いに納得します。
多くの西洋哲学本では難解な専門用語が多用され、また、あまりにも難解な言い回しが多用されています。
私自身、哲学解説書を含む哲学書を読んでみて、一般書と比べ、読み終えるのに数倍の時間がかかることも、しばしばです。何度も読み返しますし。
もちろん、用語や言い回しの難解さ以外にも理論自体の難しさがあろうかとは思います。
が、それでも、用語・言い回し面の難解さがクリアされると、哲学はずっと取っ付きやすくなると思います。
このような著者の姿勢に、大いに賛同します。
私は、哲学入門書、哲人の解説書などを本ブログでご紹介していますが、そのような取っ付きにくさの薄い、俯瞰的で分かりやすい本をご紹介していきたいと思っています。
話をヘーゲルに戻します
さて、この本「新しいヘーゲル」は、今までに「哲学史講義」「歴史哲学講義」「美学講義」などを訳してこられた、ヘーゲルの専門家とも言える長谷川宏氏によって書かれました。分かりやすく体系的な本だと思います。
ヘーゲルの哲学といえば弁証法の哲学と言えます。本書冒頭において、この弁証法について、「ひまわりの弁証法の例え」から始まり、「社会の弁証法」という流れで、「否定」と「まとまり(総体性)」が大切な2要素であることを分かりやすく語ってくれます。
また、この弁証法の本質が徹底した「(各々の)否定、対立」であるということも、私たちが誤解しやすい点として強調されていることも印象的です。その背景には、近代社会の成立において確立された「自由で理性的な精神」が根強く横たわっているからです。
この辺りこそが、原書ではなく、まずはしっかりと識者による、時代背景や文化の違いなどを踏まえられた解説書や入門書を読むことの価値ではないかと思います。
ヘーゲルの壮大な哲学体系を、この本1冊で語り尽すのは難しいです。
が、先程の弁証法の説明から始まり、「精神現象学」の体系の説明、世界全体像を倫理・自然・精神で捉えるということ、後の哲人たちに与えた影響などの幅広い内容を、その問題意識や構想に焦点を当てながら、可能な限り平易に語られている点が素晴らしいと思います。
私は、ヘーゲル哲学の網羅性、総体性、体系性、学問・教育・芸術・宗教を重要視する姿勢などに大いに共感します。
(ただ、近代哲学の特徴である「理性」を万能・最高位と見なす点など、いろいろと異議はあります。)
今までも、そしてこれからも、体系的で相対的に様々なことを学んでいきたい、と思っています。
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