「カント」(貫成人氏):時代背景を踏まえた「俯瞰的な語り」が分かりやすい! -哲学者たちのおすすめ入門書-
これまで、「西洋哲学史」の本を何冊かご紹介させて頂きました。
そして今回より、西洋の哲人に関する「入門書」「解説書」をご紹介させて頂きます。
なぜ、原書(=哲学者本人の著書)ではなく入門書・解説書かと言うと。
私にとって西洋哲学の原書は、背景としてキリスト教的な価値観や、哲学界での暗黙の(?)前提・用語・作法が横たわっているように思え、なかなかに敷居が高いと感じられるものでした。
が。幸いなことに多くの先人が、苦闘の末、予備知識の無い人に対し、分かりやすくそれらを解説してくれる入門書を多数残してくれています。
私は好んで、そのような「哲人たちの入門書」を読みます。そうすることで、背景を踏まえた連続的で俯瞰的な基礎知識が身に付くように思うからです。
前書きが長くなりました。
おすすめの書籍についてご紹介します。
今回は、18世紀の大哲学者:イマニュエル・カントです
私は、(以前「哲学マップ」という本をご紹介させて頂いたこともある)貫成人氏の「カント―わたしはなにを望みうるのか:批判哲学」が、初めてカントに触れる人にとって良いと思います。
理由は次の通りです。
・本の表紙には「中学生にも分かる」とあります。確かに本書は、難しい用語を極力排した分かりやすい内容になっています。中学生にも分かる内容だとは思いますが、大人が読むのにも適していると思います。
・貫成人氏の本の優れた点は、必ず時代背景などの「流れ」を俯瞰的に語ってくれている点です。しかも、分かりやすく要点を付いているのではないかと思います。
カントは、大陸合理論とイギリス経験論の調停を行なったこと、真善美という3つの問題についての哲学的な分析を行なったこと、そして何より理性の及び得る限界について明らかにしたことを含め、人間が関わり得る全て(多くの)事柄を体系的に思考しました。
その後のヨーロッパ哲学の礎を築いた大哲学者と言えるでしょう。
改めてここで、その思想の詳細に触れることはしません(できません)。 ここでは、カントの「問い」を、本書の「はじめに」から書き留めておきます。
・現実を生きていくうえで、何をおこなうべきか、
何をおこなってはいけないかという行動の指針
・人間は何を知りうるのか
・何かを見て美しいと感じた時、それはどうしてなのか
さらに、カントの代表作で言えば、次の問いがなされています。
・純粋理性批判 → わたしは何を知りうるのか、狭い意味での哲学、真の問題を扱う
・実践理性批判 → わたしは何をなすべきか、倫理学、善の問題を扱う
・判断力批判 → わたしは何を望みうるのか、美学、美の問題を扱う
多くの問いに正面から応えてきたカントなので、140ページほどの本書では全てを書き切れないのは当然です。本書では「純粋理性批判」中心に語られています。
本書で基本的な道筋、作法(?)を身に付けた後、さらなる興味を持たれた場合、「あとがき」に書かれている推薦書を読んだり、原書にあたってみるのがよいのかな、と思います。
文化、時代背景の違いがあるため、現代日本においてカントの議論がそのまま適用できるかというと難しいですが、それでもその思考体系は、一度、触れておくのが良いのではないでしょうか。