「自分の夢をあきらめた」芸人の物語が心を打つ!【芸人交換日記】
最近、何かと話題を提供してくれていたオードリーの、若林さんの本を再読していました。
そして、本の文中に、鈴木おさむさんの「芸人交換日記」に感動したとの話がありましたので、興味を持って手に取ってみました。
作者の鈴木おさむさんは、放送作家の方です。
そして本書「芸人交換日記」は、10年以上売れていない芸人コンビ「イエローハーツ」が本音を語り合うために書いていた交換日記を元に、物語が進行します。
本書冒頭で鈴木おさむさんが、「僕がどうしても書きたかった物語」で「あなたは誰かのために、自分の夢を諦めることができますか?」と問いかけられています。
恐らく、鈴木さんは放送作家として、売れたくて頑張り続けている芸人さんや、売れなくて芸能界を去って行った芸人さんを何人も見て来られたことと思います。
オードリーも、10年くらい売れない時代がありました。
本書では、そんな売れなくても頑張り続けているコンビ芸人さんが、やがて直面してしまう「自身の才能の限界(しかも、片方だけ!)」「年齢を重ねたり、養わなくてはならない家族ができたりで、食べていかなくてはならない(=お金を稼ぐ)」という現実に出会い、どうやって自分の夢を諦めていったのかが、赤裸々に綴られていきます。
本書で登場する芸人コンビのイエローハーツは、11年売れていないけれども、芸人として、まあちょっとチャランポランなところはあれども、チャンスをつかもうと奮闘しています。
が、大きな舞台(コンテスト)に向かい合うことで、逆に才能の限界を悟ってしまい・・・
結末は細かく書きませんが、大まかに言えば、2人のうち1人が芸人をやめるのです。
10年以上打ち込んできたことをやめるということは、言ってみれば、本人のアイデンティティ喪失(=ある意味「小さな死」)とも言える、大変な事態です。
アイデンティティを失うのは、誰だって怖いですから。
しかもこの場合は、自分の才能(=自分のアイデンティティの拠り所)が無いことに直面するということですから。
耐えがたい苦痛だと思います。
なかには、この苦痛を正面から受け止める人もいるでしょうが、
私自身含め多くの人は、「あの人のために、自分は身を引いたのだ」というような自己犠牲的で自尊心を保てるような理由、言い訳を探し、そんなタイミングで諦めようとするでしょうし、
また、「守るべき家族ができたので、食べていくために」(芸人など何かを)諦めるというように、他のアイデンティティを担保したりします。
当然です。
それが人間なのだと思います。
直面するのは、誰だってしんどいです。
この物語は、最初の頃はユーモア交じりに、少々のんびりした感じのコンビのエピソードから始まり、徐々に「夢を諦める」という重い、けれども、芸人さんに限らず多くの人が直面する課題に向き合う様子が描き出され、ホロっとしたり、考えさせて頂けます。
オードリーの若林さんが感動した、との話にも、大いに頷けました。
本書「芸人交換日記」、ぜひ皆様もご一読されてはいかがでしょうか!