イスラム教の神秘主義【スーフィズム】を俯瞰できる書籍です。 -「スーフィズム入門」-
イスラム教、イスラム世界について調べている中で、何度かイスラム神秘主義:スーフィズムという言葉に出会いました。
神と人々が明確に区分されるイスラム教において、神との合一を目指すという、一見して対立する考え方を持つスーフィズムに興味を抱き、幾冊か書籍にあたってみました。
今回は、スーフィズム入門的な本についてご紹介させて頂きます。
この本「イスラムの神秘主義―スーフィズム入門」は、英国の東洋学者レナルド・A・ニコルソンという人によって書かれました。
キリスト教圏である英国の学者によって書かれた、このスーフィズム入門書は、キリスト教圏というイスラム教とも縁のある環境・素地から、学者の眼をもってスーフィズムを俯瞰するということで、入門書として適した客観性・網羅性を備えていると思えます。
さて、スーフィズムにおける目標とは。
スーフィズムとは、神のようになったり、人格的に神性に参入することではなく、
己の非実在の自我性の束縛を逃れ、それによって一なる無限の存在と再び結合すること、
結合・合一とは心を専一にすること、神以外のものへの執着を取り除くこと。
愛は個我の消滅を意味する。
とあるように、自我性を消滅し神と合一化することが、まず最初の目標となります。
そして、そのような合一性を持続しながら、一度出離したこの世界に戻り、多様性で象徴されるこの世界に、神の唯一性を顕していくことが最終的な目標であると言えます。
合一を達成した後、社会で生きるという2段階(実際は並行でしょうね)の目標があるのです。
ここでちょっと、本書の目次について掲載してみます。
1.道、2.照明とエクスタシー、3.霊知、4.神の愛、5.聖者と奇蹟、6.合一の境地
また、本書の冒頭では、重要な外的影響として、キリスト教、新プラトン主義、グノーシス思想、仏教が挙げられています。
一見、この目次や外的影響の文章を見てみると、スーフィズムとは、キリスト教の神の愛、仏教的な修行の道に影響を受けた体系を持ったものとも思えます。
が。
私自身は本書を読んでみて、スーフィズムとは、インド哲学のバクティ―ヨーガ(愛のヨーガ)的な世界と、大乗仏教的な体系を持った世界のように感じられました。
門外漢の私には、スーフィズムがこれらからの影響を受けているのかどうかは、正確には分かりません。
これらの影響を受けたというよりは、イスラム教・イスラム世界という「現世で生き切ることも大切にする」という土壌において、より内面的な道を求めた結果、このような体系になったのではないかとも思えます。
日本に住んでいる私には、現地のスーフィズムを肌で感じる機会はなかなかありそうにないですが、本書を読んでみて、スーフィズムとは、インド哲学、仏教、キリスト教などが目指す境地とも共通した面のある、体系的な教義・道だな、と感じました。
私自身の視野が広がったことは確かです。