1980年代現代思想を中心に、戦後日本思想史をしっかりと俯瞰できる! -集中講義!日本の現代思想-
以前、「世界の現代思想」全般を俯瞰できる興味深い本「現代思想の教科書」をご紹介させて頂きましたが、今回は、「日本の現代思想」について執筆された興味深い本についてご紹介させて頂きます。
この本:「集中講義!日本の現代思想―ポストモダンとは何だったのか」は、現在、金沢大学法学類教授で、現代思想を中心に多くの著作を出版されている、仲正昌樹氏によって執筆されました。
本書で言及されている「日本の現代思想」とは何か?
まとめるのがなかなか難しいのですが・・・
1) 1983年、フランスの現代思想の動向などを解説した浅田彰氏の「構造と力」が、15万部のベストセラーになった頃、その輪郭が定着していった。
2) 背景としては、戦後マルクス主義の影響が政治面、アカデミックな面でも大きく後退し、大量消費社会という新たな現実に対応する、新しい思想の枠組みが求められている時に登場した。
3) 特徴としては。
・当たり前ですが、近代思想の枠組みから逸脱している
・学際的=他の領域の知との境界線が曖昧になっている
・脱アカデミズム的(ニュー・アカデミズムと呼ばれる)、すなわちジャーナリズムや各種芸術分野に進出したり、論文的でない形(座談、体験記風)で発表されるなど、従来とは異なる形式で発表されてきました。
・いわゆるサブカルチャーと結びついている
本書では、タイトルとおり、1980年代日本思想(ポストモダン)の流れについて詳しく言及されていますが、それと同時に、(前述の)戦後の長い期間日本で大きな影響力をもったマルクス主義や、丸山昌男氏、吉本隆明氏などの戦後思想などにも焦点が当てられ、日本思想を流れとして俯瞰できます。
さて、このように一世を風靡してきた日本の現代思想も衰退していきます。
背景としては、1990年代に入り、源流となったフランス思想家が高齢化、亡くなっていったこと、日本の経済構造が変化したこと(失われた20年)、東西冷戦が終結しパワーバランスが変化した、ことなどが挙げられます。
そして現在は、著者曰く、再び新自由主義者やナショナリストなどの右勢力と、左勢力による二項対立的になってきた、と言います。
確かに、グローバリズム批判、格差批判などが、今の日本の中心的な話題となっていますね。書店に行くと、驚くほど多くの関連本が並べられています。
この本は、いわゆる現代思想を含む戦後日本思想の流れを把握するにも良いですし、本書内で取り上げられている思想家の本に個別に当たってみるためのガイダンス本としても良い本だと思います。