「現代思想の教科書」(石田英敬氏):4つのポスト状況を俯瞰的に分かりやすく語ってくれます
今回は、「現代とはどういう状況なのか」を幅広い視点で考察した「現代思想の教科書」をご紹介します。
この本は、放送大学での講義「現代思想の地平」を元に加筆、修正を加えたもので、講義のコマ数に合わせた15章で構成されています。
現代とは:4つのポスト状況
著者によると、現代とは4つのポスト状況(=後に続くという意味)にあると言います。すなわち
1.ポスト・グーテンベルグ
活字メディアによる文明圏が一区切りを迎えた時代。
2.ポスト・モダン
近代(モダン)が文化的にも学問的にも一区切りを迎えた時代。
3.ポスト・ナショナル
国民国家というシステムの終焉。グローバル化の時代。
4.ポスト・ヒューマン
人間とテクノロジーの境界が揺らいでいる時代。
若干の補足を加えると、現代とは、
電子メディア化・マルチメディア(音声、映像など文字以外の媒体)化が進み、文化や知の秩序が混乱し、情報が国境を容易に越え、人間固有のもの(例:記憶、計算)、生命現象(例:人工臓器)がテクノロジーによって代替される時代であるということです。
本書の内容について
では、本書の各章の内容は、というと。
「20世紀とは言語・記号の世紀」とも言われます。人間の生活世界、文化、社会を説明する原理として言語などが中心的な問題として浮上してきた時代です。
まずはソシュール、パースなどの言語・記号理論を紐解き、そしてそれらの応用編とも言える構造主義、またそれ以外の理論としてフロイト、ラカンなどの無意識の世界、フーコーらの社会論など、多様ながら主要な理論について分かりやすく語られます。
そして後半は、現代を表す重要論点である情報、メディア、文化産業、戦争、宗教、ナショナリズム(グローバリズム)、ジェンダー等々、前半の理論と結びつけながら分かりやすく語ってくれているのではないかと思います。
現代思想所感
本書やその他の現代思想に関する本を読んでみて、そして何よりも私自身が現に生活してみて、現代とはデジタル化、情報化、数値化、フラット化(平坦化)、相対化(=絶対というものを否定)あたりのキーワードで象徴される社会かな、と実感します。
一方で、現代思想が行なったような、言語・記号などを用いて、文化のみならず精神、観念、意識といったものまで分析するということは、それらの内にある「深み(奥深さ)」を捨象(捨て去る)してしまっているように思えます。この点については「極端」な方向に偏り過ぎていっているように感じます。
この本を読んでみたことで、整理し切れていなかった現代社会に関する問題意識を交通整理してくれたことは確かです。一読されてみられるのはいかがでしょうか。
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