「プラトンの哲学」(藤沢令夫氏):壮大な哲学を創りあげた西洋哲学の祖 -哲学者たちのおすすめ入門書-
西洋哲学の祖と言われる大哲学者:プラトン
この本「プラトンの哲学」は、プラトン全集を翻訳されたプラトン研究の第一人者である藤沢令夫氏により執筆されました。
ご存じのとおりプラトンは、師ソクラテスの多大な影響を受けています。それは「対話篇」という特殊な形で書かれているプラトンの著作のほとんどにソクラテスが登場し、ソクラテスが語るというスタイルでも明らかです。
プラトンの基本思想は、「ソクラテスの弁明」にある以下の言葉・思想が基底となっています。
すなわち、
金や評判、名誉のことばかりに汲々としていて恥ずかしくないのか。
知と真実のことには、そして魂をできるだけすぐれたものにすることには
無関心で心を向けようとしないのか?
極端なことを言うと、この考え方・志向を発展させていったのがプラトンの生涯であり、哲学ではないかと思う程です。
またこの本では、プラトンの哲学の中核をなす「イデア論」への言及が中心となっています。本書の3分の1くらいが、イデア論への反論に対する議論、発展の経緯、そしてイデア論の解説などに費やされています。
著者は、「似像」「場」という概念を持ち出し、誤解・誤読されることが少ないよう、次のような分かりやすい例を提示してくれます。
ご紹介しましょう。
「これは菊である」という表現ついては、次のような言葉で説明されます。
・場のここに〈菊〉のイデアがうつし出されている。
・〈場〉のイデアの似像が、場のここに受け入れられて、菊として現れている。
また、「この菊は美しい」については、次のように説明されます。
・〈美〉のイデアが、
場のここ(=場の知覚像が現れている所)にうつし出されている。
・〈美〉のイデアの似像が、
場のここ(=同上)に受け入れられて、美として現れている。
イデアとは何であるか、大変わかりやすい説明だと思いませんか。
また、ここでは十分に書き切れませんが、プラトンにまつわるよくある誤解である「二元論者である」「物質的自然観の元祖」といった内容を、(確かに、そうとられそうな記述があることも事実ですが、)明確に否定する箇所も印象的でした。
前者の例で言えば、プラトンは、「自然」を生命なき物質と見なしてはならない、と生涯一貫して説き続けていたのです。このような感じで、本書を読むことで数々の通説に関する見直しができるのではないでしょうか。
それから、この本の最終章の、科学において否定されがちな「精神的な価値」とか「倫理」といったものを今一度見直す、「快・効率」ばかりでなく「善を目指す」ことが大切だという主張も印象的です。
わざわざ最後にこのような章が設けられているのは、プラトン研究者として「プラトンが現代科学の考え方のもととなる二元論・物質的自然観の元祖」と見なされていることへの、かすかな反発心を垣間見たような気がしました。
プラトンの壮大な宇宙観、哲学に驚嘆できる、良い本だと思います。
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