教育論には根拠と証拠を!というお話 -学力の経済学-
頻繁に本屋で見かけますので、結構売れているのでしょうね。
発刊半年以内ですが、アマゾンの書評が100件を超えています。
今回は教育経済学者の中室牧子さんが書かれた「「学力」の経済学」を取り上げてみます。
経済学、と書いてありますが、一体何について書かれているのでしょうか?
前書きには、中牧さんがよく受ける質問について書かれています。
すなわち、
・子どもを勉強させるために、ご褒美で釣ってはいけないのか?
・子どもは褒めて育てるべきなのか?
・ゲームは、子どもに悪い影響があるのか?
などです。
それに対する回答は本を読んで頂くとして・・・
このような質問に対する回答(見解)が根拠付きで書かれているのです。
本では、いわゆる通説的、テレビなどで言われている内容と全く逆のことも結構多く書かれています。
また中牧さんは、一つの事例に過ぎないものを、あたかも全体を表しているかのように捉える「現在の教育に対する意見(通説)」に異論を唱えます。どこかの誰かが子育てに成功したからといって、自分の子供に同じことをしても、同じように成功する保証はどこにもない、と言われます。
まあ、ごもっともですね。
その子に適した方法を探すには、当のお子さんをよく観察する、対話することの方が重要ですね。
中牧さんは、「教育にエビデンスを!」と強調されます。
すなわち、証拠、根拠がちゃんとあることを事実として述べてください、ということです。個人の体験(データ)を大量に入手し、観察することによって見出される規則性を重視されます。統計の手法を用いてデータを分析してみると、いわゆる通説を覆すことが多々ある、ということです。
また、通説を覆す、という話ではありませんが、本当に大切だと思う話を一つ。
それは、子どもが小さいうちからしっかりと人的資本(非認知能力)にしっかりと投資すべき、という話です。
経済学用語を使っているため、投資、収益率などの少々違和感を覚える表現ですが、要するに、「小さいうちから非認知能力という、IQや学力ではない力を鍛えることが大切」ということです。言い換えると、ゴール(目標)に向けて興味を失わず努力し続けることが、結局は社会的に成功する、ということです。
ここで、非認知能力について説明します。
それは、自分に適度な自信を持つ、意欲を持つ、忍耐力や自制心がある、社会性がある、回復力がある、といった「人間力」にあたる能力とも言えるものです。
中室さんは、この中で特に「自制心」「やり抜く力」が大切であると言われます。
これらは、しつけや計画立案、遂行、振り返りのような、普段の生活で身に付けるものだと思います。私もこれまで、多くの優秀な方々を見てきましたが、そのような方々の特徴を鑑みると、特に「やり抜く力=継続力」が優れているのではないかと密かに思っていたので、この点は大いに同意します。
「やり抜く」というと、ネジリ鉢巻きで頑張る、根性論、を想像するかもしれませんが、そうではなく、適切な目標と方法を見出す、「仕組み」として日常生活に落とし込む、という多分にロジカルなものだと考えています。
最後に、この本、というより、現在のメディアなどでしばしば見られる点であり、注意が必要な点について書いてみます。
それは、物事や結論について、あまりに白/黒、Yes/Noをはっきりと言い過ぎている点です。
例えば、(ネタバレですが・・・)前書きに、「子どもを褒め育てしてはいけない」という話があります。
この言葉が独り歩きする可能性があるのです。
本を読めば分かりますが、実は「褒めること」を否定するのではなく、「褒め方」が重要なのです。効果の無い褒め方があるのです。
単純に白/黒で判断するのではなく、その内容(背景、細目)をしっかりと把握すべきです。これは本の中のことではありませんが、同様に「○○に効果があります!」という宣伝にも、そこには「程度、頻度」などの情報が隠れていることを見落としてはいけません。よーく情報を見ると、「効果がある」といってもたかだか数%のこともあります。
データのより細部を確認するクセをつけなくてはいけない、と思います。現代は、巧みな宣伝があまりに多く、うっかりと鵜呑みにすると思わぬものを買ってしまう、ということがよくあります。
まとめると、この本からは、
・エビデンス(根拠、因果関係)があるデータを求めること。
・結論の中には、程度、深さなど、細目や背景が必ずあることを知っておき、それらをしっかりと確認すること。
ということを改めて気づかせて頂きました。
確かに、よく売れている本だけあり、興味深かったです。