圧倒的な教養と深い洞察に驚きます -小室直樹氏の「憲法原論」- (おすすめ本)

さて今回は、

小室直樹氏の「日本人のための憲法原論

における印象的なトピックスについてピックアップします。

 

・「議会」は、決して民主主義のために生まれたのではない。

王様にとっても貴族にとっても議会は自分たちの利益と特権を守るたの道具にしか過ぎなかった。具体的に言うと、王様は、領主=貴族たちの代表を一堂に集めて、租税を認めさせるために議会を招集した。 一方で、貴族たちは、自分たち貴族の特権を保証させたかったのである。

 

・「多数決」も、民主主義とは関係なく生まれた。

12世紀ころ、ローマ教会で次期法王を決める際、全員一致ではいつまでたっても決まらないから(いつまでも法王位を空位にできない)、多数決で認められたことは全体の総意と見なす、という約束事を作ったに過ぎない。全員一致ではなかなか物事が決まらない。効率的に物事を決めるための一種の便法である。

 

・キリスト教の「予定説」が民主主義のスタートラインである。

予定説を信じると、神様の目から見たら、王様も自分も大した違いはない。しょせんは原罪を背負った、神様の奴隷にすぎない。予定説を信じると、王様だろうが領主だろうが、平民と同じ人間ではないかという意識が生まれてくる。人間は神の下にあって、みな平等である。したがって、人間が持っている権利もまた、皆同じである。

 

・中世の人々は安息日以外もあまり働いていなかった。

当時は、自分の生活を支えるのに必要な分だけ稼げば良いと思われていたからである。職人なども、週に一日か二日だけ働き、日銭を稼いだら、あとは家でゴロゴロしていた。

 

・アメリカでは独裁者が生まれない。

アメリカの建国者たちは、大統領をけっして大衆の歓呼によって決めないようにした。アメリカではあえて選挙戦を長くすることで、熱狂が起こりにくくしている。というのも、選挙期間があれだけ長ければ、その間に候補者の隠している欠点や後ろ暗い過去が明らかになる。そうすればその人は英雄になれない。

 

いかがでしょうか?

これらは、ほんの一部に過ぎません。

このような感じで、この本には著者の深い洞察が多々書かれています。

 

一度読んだだけでは、とても頭に入り切りません。

読書ノートをつけた方が良いとも思います。

 

小室氏のこの本のように、憲法学に止まらず、西洋史、政治学、経済学などの多彩な見地から、多面に渡って検討される様を踏まえると小室氏が「知らないことを知り、知るために勉強する」というサイクルを繰り返し、統合力、総合力を付けていかれたことを実感ます。

 

小室氏の圧倒的な知識、見識についてふれることができる素晴らしいこの本をおすすめしたいと思います。読むたびに、憲法のみならず西洋史、政治学、経済学について新たな発見があると思います。

 

最後に注意点ですが、この本では、日本国憲法の各条文の解釈などはありません。原論ですので。

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