貧困の実態を知ってもらいたい。 -「反貧困」(湯浅誠氏)1-
前回まで、ピケティ教授の「21世紀の資本」を話題にしてきました。
そして今回は、ピケティ教授特集の「週刊ダイヤモンド」に掲載されていた記事につ
いての話題です。
まずは、その、週刊ダイヤモンドでの記事について紹介します。
それは。
「今、日本で起きていること、それは格差の拡大というより【貧困の再発】ではない
か」ということ。そして、貧困の問題は、「21世紀の資本」と表裏一体の関係にある、
ということです。そして、貧困について考えるためのおすすめ本として、湯浅誠氏著
「反貧困」が紹介されていました。結構話題となったのでご存知の方もいらっしゃる
と思います。
この本は、2008年に出版されています。
少し古いので、現在では変化している面もあるかもしれません。
が、多分根っこの部分は変わっていないはずだと思います。
本の中で湯浅さんは、「みんなに知ってほしい」と書いていらっしゃいますので、
今回は文中の具体的な内容を多めに書きたいと思います。
この本で言及している、皆さんに知ってもらいたい実態とは以下のことです。
三層のセーフティネットが十分機能せず、
そのために多くの人たちがこぼれ落ち、
貧困(溜めのない状態) にまで至ってしまって
いる。その様子をすべり台社会とも形容し、
また現実に墜落していく人たちの立場からは
五重の排除として表現 できる。(P.107)
ここには、本を読んでいないと分からない用語がありますので、順に解説して
いきたいと思います。
まずは、「三層のセーフティネット」とは何でしょうか?
それは、以下の通りです。
・雇用のセーフティネット:雇用機会のこと
・社会保険のセーフティネット:雇用保険、健康保険など
・公的扶助のセーフティネット:生活保護
一般に、上から下に向かってセーフティネットが張り巡らされているのですが、後述
するように、現実問題として、簡単にこのセーフティネットをすり抜けてしまうという
問題があります。
次に「溜め」とは何でしょう?
「溜め」とは、外界からの衝撃を吸収してくれるクッションの役割を果たすととも
そこからエネルギーを汲み出す諸力の源泉のことです。 具体的に言うと、お金だ
けでなく、頼れる家族、親族、友人などの人間関係の溜め、自分への自信などの
精神的な溜めなどのことです。
本の中では、人間関係の溜めの例として「兄の借金の取り立てに対し法律家を紹介
してくれる(ような知識を持った)息子」の存在や、月給仕事をするような場合、一般
に月末まで給料が入らないのですが、「
賄い=余裕」などが挙げられています。(P.78です)
そして「すべり台社会」とは、何でしょう?
一度滑り出したら止まらない、セーフティネットからも転げ落ちてしまう社会の
ことを湯浅氏が形容した言葉です。
最後に「五重の排除」とは何でしょう?
・一つ目は「教育課程からの排除」
・二つ目は「企業福祉からの 排除」
雇用のネットからはじき出されること、あるいは働いているのに食べていけなく
なっている状態をさします。
・三つ目は「家族福祉からの排除」
親や子供に頼れないことをさします。
・四つ目は「公的福祉からの排除」
生活保護行政などによる排除です。
・五つ目は「自分自身からの排除」
何のために生き抜くのか、何のために働くのか、というような「あたりまえ」が見えなく
なり、「世の中とは誰も何もしてくれない、生きていてもいいことはない」という自己否
定の心理状態に陥ることです。
これらの用語を踏まえると、冒頭の言葉は次のように言えるでしょうか。
雇用・社会保険・公的扶助などの「社会のセーフティーネット」が十分に機能せず
多くの人が一気に貧困に陥っていく(すべり台社会)。
多くの人が、お金、人間関係、自分自身への自信などを無くしてしまった状態、
いわゆる「溜め」が無い状態になっているのである。
では、湯浅氏らは、これに対してどのような活動を展開されているのか。
長くなりましたので、明日に続きます。