多面的な分析が秀逸な カール・ベッカー教授の「死の体験」 (おすすめ本)
久々にヘミシンク近接領域(?)の本を紹介します。
それは、日本の大学で教鞭をとられている
カール・ベッカー教授の「死の体験」という本です。
ベッカー教授は、アメリカのシカゴ生まれで、1983年から日本の大学などで講師・教授を務められてきました。生命倫理学、比較宗教学、倫理学がご専門です。アカデミックな世界(大学)にいらっしゃりつつ、離脱体験の研究や
国際臨死体験協会を設立される、などのご活躍をされてきました。
実は、私はベッカー教授とお会いしたことがあります。
まず最初に驚いたのが、メールによる教授とのやり取りの時です。
何と教授は、漢字も混ざった綺麗な日本語によるメールを下さったのです!
私の記憶では、アジアの方以外の日本語ノンネイティブの方で、これだけ日本語の文章を使いこなして書かれる方を知りません。 喋ったり、聴いたりすることができる方は多いですが、書くという行為ができることに驚嘆しました。
さらに、面会させて頂いたのですが、初めてお会いしたベッカー教授は、思慮深そうな方、深みを感じる方、清廉そうな方という印象でした。もちろん、日本人以上に綺麗で流暢な日本語をしゃべられる、という点も印象的でした。
さて、本の話に戻ります。
立花隆氏の「臨死体験」でも、氏の幅広い知見に感動しましたが、このベッカー教授の「死の体験」も幅広い知見から「臨死体験」「死後の世界」について検討されていることに驚嘆します。
この本の最初の章では、様々な人の臨死体験が語られているため、「この本も体験記に終始するのかな」と思うかもしれません。
ところが、そうではないのです。
第3章あたりからが、ベッカー教授の真骨頂だと思います。
脳科学的・心理学的な分析、現代物理学の知見、浄土思想やチベット仏教(「死者の書」)など本当に幅広い知識、経験を元にしての論旨が展開されます。 様々な反証的な説に対し、数々の証拠や理論を駆使することで丁寧に反「反証」されています。
さて、読んでみて、印象的な点、認識を新たにできた点などを2点挙げたいと思います。
一つ目は、「科学と超常現象の接点」という章です。
一般的に言って「超常的な現象」については、「非科学的」等の理由以上に、「これってオカルトだ」というような社会的な圧力によって、世間に受け入れられにくいという面があります。
しかしながらベッカー教授は、そのような状況の中でも「超常的現象を科学的な研究領域として確立するための視点や方法論」について主張されます。
例えば、古典的物理学ではなく「現代物理学の視点で考察すると、超常的な現象を科学的に見ることが可能である」ということ、科学的ではないという批判の的になる「反復性・理論性・確率論の問題」についても根拠を示しながら論破を試みられています。
ベッカー教授は、このような超常的現象が研究領域として確立されるためにも、長い年月をかけて信憑性のある情報の収集と公開を行う必要があると言われます。
この章を読むことで、このために重要なポイントとなる「科学的視点」についての示唆が得られると思います。
さらには、「浄土思想、チベット仏教との比較考察」
「瞑想と臨死の比較考察」についても秀逸だと思います。
これらは、後半の3章をさいて書かれています。
ここでは、浄土思想について詳説した後、そのような浄土を体験するための有用な二つの方法として「瞑想」と「臨死体験」を挙げています。
さらに、仏教でいう来世を考察するために「チベット死者の書」を詳しく解説し、上記との相違点などを探っていく、という内容になっています。
この章を読むことで、浄土系の瞑想のメソッド、浄土宗の変遷、チベットの来世思想に関してかなり理解が進むと思います。私自身は、特に浄土系の思想に疎かったこともあり、この本が理解の助けになったと思います。
さて、最後に。
正直なところ、このように、この本の概要を読んだだけでは、その内容を理解することは難しいと思います。
中身を読み、端的にまとめられた言葉、論証を反芻しながら頭の中を整理することこそが意味がある、そのような本だと思います。