ひとは二面性を持った生き物であることを知る ‐岡田尊司氏の「あなたの中の異常心理」‐
あなたも、悪や異常とも言える心理を抱えている
と言われると、ドキリとされるのではないでしょうか。
精神科医である岡田尊司氏による「あなたの中の異常心理」は、人々が持つそのような側面に焦点を当てた本です。
まず、「はじめに」の中にある文言をピックアップしてみましょう。
人間は二面性を抱えた生き物である。誰でも影の部分をもっている。
正しいことをしたい気持ちがあれば、それとは裏腹に、悪いことをしたい衝動も潜んでいる。それが人間である。多くの人が、似たような危うさを自分の中に抱えている。
その通りだと思います。
日常生活で普通に暮らしている時はそのような事を思わなくても、何かのキッカケで、ふと自分のそうした影の部分に気付くかもしれません。また、ある場合では、本音とは反対のことを口にしてしまう、など正反対の気持ちや行動を行ってしまうことに戸惑いを覚えることがあるかも知れません。
けれども、このような、一見矛盾したような心理を抱えていたリ行動したりすることは、異常ではなくて誰にでもあり得ることだということを、この本は教えてくれます。
また、岡田氏は言います。
正常と異常の区別に意味があるのではなく、むしろ両者の連続性に意味があるのである。
異常と正常の境目をつなぐような心理状態について知り、それを理解することが、極めて異常な心理状態を理解することにもつながるし、ごく日常でもしばしば出会うちょっと理解しがたい不可解な行動の意味を理解するにも役立つのである
大切なこととして、そのような状態というものは誰にでもあるけれど、「1か0(ゼロ)」という二分法的なものではなく、アナログ的な連続性を持ったものであるということです。普通に生活していても強いストレスや葛藤状態に置かれると、それが極端に現れることも十分にあり得ます。
現れ具合の「程度」により、正常範囲内か異常かをカテゴライズしている、ということなのだと思います。
そういった意味で本書は、自分の中の異常心理(の萌芽)について知ると同時に、矛盾に満ち溢れた自他理解へも生かせるのではないかと思います。
最後に、岡田氏は数多くの事例から、人間の根源的な欲求として、「自己を保存しようとする(防衛する)」「他者からの承認や愛情を求める」の2点を挙げられています。
さらには、それらが満たされない(満たされにくい)状況においてどうしていけばよいのか?
両価性などを理解し、「広い価値観や視野を持つこと」「他者との相互的なかかわりなどの【安全基地】を持つことの大切さ」を訴えられています。
興味深い本だと思います。