アメリカの【個人主義】が、実は現代「日本人」の価値観とも多々共通点があることを実感します。-ロバート・ベラー「心の習慣」-

今回は、ロバート・N・ベラーによる心の習慣のご紹介をします。

さて、心の習慣とは?

 

アメリカ人の生活の儀礼的パターンのことで、儒教の「礼」にあたるものだそうです。

本書心の習慣を読んでみて私は、この本のサブタイトルである「アメリカ個人主義のゆくえ」や、原書のサブタイトルの直訳である「アメリカ人の生活(人生)における個人主義とコミットメント」の方が、その内容を端的に示していると思いました。

 

この本で扱っているのは、個人主義や自由を重んじてきたアメリカにおいて、あまりにも分離個体化(孤立化、孤独化)が進んでいること、

そして個々人のレベルでは、あまりにも「個人的な成功を夢」見、またそんな過酷な競争から一時的に離れる場としての「ライフスタイルの飛び地で過ごす(ここでは、定常的な人間関係や文化を築けないような、深さの無い場のことです。共同体未満の場です)」ような生活に埋没している、と指摘されます。

 

その背景には、アメリカの人々に人生の意味、統合的な価値観、公共の善などを示してくれた家族、教会、種々の文化団体、(断片的ですが)学校など、聖書的・共和主義的な多くのアメリカ人にとって重要な諸伝統の変容、崩壊、断片化などがあると言います。

ここには、アメリカの人たちが特に重要視する個人主義(自分らしくあること)が、歴史的・伝統的な共同体によって形成されてきたという前提があり、そういったものが壊れていることに警鐘を鳴らしているのです。

※そういった意味で、本書のメインタイトルが「アメリカ人の生活の儀礼的パターン=伝統的共同体で培われてきたもの」と繋がって、「心の習慣」となったのでしょうね。

 

ご存知のように、アメリカ合衆国とは、主にヨーロッパから移住してきた人が建国した、比較的新しい国です。そして、キリスト教との深い関係がある国です。

そんなアメリカの状況・問題点について書いた本書心の習慣ですが・・・

 

現代の日本でも、よ~く当てはまっていると思われませんか?

 

アメリカとは全く違う歴史を辿って来た国であるにも関わらず、です。

 

ただまあ、考えてみれば、現代の日本とアメリカとで、似通った問題点を持つ、といった点は、当然と言えば当然かな、とも思います。

なぜならば。

現代社会は、経済が優先され、しかもその経済はグローバル化され均一的なものとなりつつあり、人々は成長を求めて、ますますスピードを速めざるを得ない、という状況は、とくに先進国共通だと思います。

 

では、これらのことに気づき始めた私たちは、どういう方向に進んで行くのか?

それが。

単に伝統的な共同体に復古していくことではないのは明らかです。

それは。

伝統的共同体そのものになるのではなく、伝統的共同体の持っていた美点、価値観を実現していくことなのです。

 

本書では、それを具体的に事細かく示されているわけではありませんが、その方向性については、最後の辺りにしっかりと書かれています。

基本的な考え方のようなものでしょうね。

それは。

・おそらく人生は、先頭を切ることが唯一のゴールであるような競争ではないだろう。

・おそらく真の幸福は、たえず前の者を追い抜くことで得られるものではないだろう。

・おそらく真理は、それ自体において良い、そのものとして充実をもたらしてくれる生の実践が存在する、ということのなかにあるだろう。

・おそらく、愛する者への永続的なコミットメントと同朋市民への市民的友情は、休む間もない競争や不安げな自己防衛よりも好ましいものだろう。

・おそらく存在そのものの神秘に触れて発する感謝と驚きの表現としての共同の信仰は、何よりも重要なものだろう。

・もしそうならば、私たちは、私たちの人生を変えなければならない。私たちが好んで忘れてきたものを思い出さなければならない。

・私たちは、自らを創造したわけではない。私たちが今こうしてあるのは、私たちを形成した共同体があるからである。

といったものです。

 

日本人にとっては、「共同の信仰=キリスト教会」の部分などは読み替えが必要ですが・・・

これらの価値観は「取り戻さなくてはいけないもの」として大切なように思います。

 

なお、本書「心の習慣」の後には、「善い社会-道徳的エコロジーの制度論」なる本が続編として出版されています。

私はまだ読んでいませんが、こちらの本には、さらにベラー氏の描く社会像が書かれているのではないかとも思っています。

 

今回はシンプルに「心の習慣」についてご紹介しましたが、本書には、まだほかにも様々な論点がありますし、気づけたことも多々あります。

ご興味を持たれた方は、ぜひ一読されてみてはいかがでしょうか。

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