なつかしくもあり、意外でもある、宮本常一氏の【忘れられた日本人】はかつての日本人の生き生きとした生活が綴られた「超おすすめの本」です!
なつかしいなぁ、と思ってみたり、
意外だなぁ、と思ってみたり、
その大らかな暮らしぶりに爽快な気分になってみたり・・・
「生活(誌)学者」とでも言うべき宮本常一氏によって、江戸時代後期から昭和初期あたりの、いわゆるふつうの人々の生の暮らしぶりを描いた本「忘れられた日本人」は、様々な感覚を抱かせてくれる、とても興味深い本です。
ワクワク感も覚えました。
宮本氏は、昭和14年(1939年)以来、日本全国をくまなく歩き回り、各地に残る伝承資料にあたったり、古老の語る伝承話・本人の話を丹念に聴いてこられました。
その膨大なご経験のなかから、幾つかの印象的な話を掲載したのが、本書「忘れられた日本人」です。
今回は、私が抱いた感覚を踏まえながら、その内容を紹介してみたいと思います。
1.なつなしいなぁ、と思った点
私が育った田舎町では、 --- 私が幼少の頃にはかなり廃れてはいましたが --- それでも幾らかは本書にあるような暮らしぶりを彷彿させる種々の環境・風習がありました。
例えば。
田植え、稲刈りをするときは、一家・近隣の親戚が集まって、1~2日かけてやっていました。そのような機会には一同がいろいろと会話することで、今とは比較にならないほど、親戚との繋がりは濃かったように思います。
また、家の納屋には牛を、家の床下には鶏を飼うのが当たり前でした。今思えば、どこから牛や鶏を買ってきたのだろう?などとも思いますが、いわゆる伝統的な家に住んでいる人々は、ふつうに牛や鶏を飼っていました。
そして、地域で寄り合う機会が多かったです。
家を建てるときは骨組みを作るまで大工さんと一緒に作業していましたし、お宮の台座の修理をしたこともあります。
また、役場に陳情する内容を決議するときは、平日の夕方~深夜まで何回も話し合いをしていました。会社勤めをしていた私は、「何でこんなに時間をかけるのだろう」とずっと思っていました。関係のない世間話が8~9割を占めていましたので。。。
本書には随所で、さりげなくこのような人々の暮らしぶりが描かれています。
そして、これらは全て私たちの前から急速に失われていきました。
田植え、稲刈りは機械化され、他の人に耕作してもらったりしていますし、牛や鶏を飼っている家にはお目にかかりません。地域の会合も、せいぜい1時間~1時間半で終わるようになりました。私の世代では、上述のような経験のない人(家庭)が半分くらいあったように思います。農業に従事しなくなったのです。
本書に書かれているような、そして私自身も少しだけ経験したことがあるような、他人や動物が近くにいた生活ぶりが、何やら無性になつかしく思いました。
※復古的なものを手放しで礼賛する気はありません。これら世界には、同調圧力などの負の側面もあるからです。
さらには。
本書内で古老の話は、その土地の方言で書かれています。
今でも私たちは方言を使っていますが、昔ほどではなくなっています。なので、まるで祖父母と話しているようで、この点でもなつかしく感じました。
2.意外だなぁ、と思った点
いろいろとあるのですが、二つだけ書かせて頂きます。
本書内では、結構、夜這いの話が出てきます。各地で行われていたようですね。
夜這いの習慣って、平安時代~鎌倉時代に盛んだったとのイメージを持っていたので、意外な感じがしました。
性に開放的だったという言い方ができるのかも知れないし、今と比べて単調な生活の中での「楽しみの一つ」だったと言えるのかも知れませんね。
そして、本書内では、旅をしている人の話がよく出てきます。
基本的にタダで泊まって日本中を旅する人が結構いたようです(世間師と言います)。いわゆる普通の民家でも、旅人をタダで泊めていたとの話が出てきます。
すべての人がタダで泊まれたのかは定かではありませんが、歌などの芸事ができたり占いをするような人々は、確実にタダで他人の家に泊まったり、船に乗れたようです。また、逆に、芸事や占いによりお金を取ることもなかったようです。
3.大らかさに対して爽快感を覚えた点
上の項とも関連しますが・・・当時のふつうの人々は農業で生計を立てていました。
長男が家督を継ぐことが多かったので、次男、三男は出稼ぎに出て、そこで働いたり遊んだり(夜這いなどです)して、流れるままに日本中を旅することもあったようです。
四国のお遍路に行く人の中には、道中で「貧しくて子育てができないので、この子をもらってくれ」と言われて、その子を引き取り、以後、子連れでお遍路をしている人もいたそうです。
その敷居の低さに驚きました。
これ以外にも、他家の子どもを養子にもらうケースも多く、血筋などは、ふつうの人々の中ではあまり重要視されていないように感じました。
ふだん質素な暮らしをしながらも、何とかなるさ、という潔さや大らかさを感じ、妙に爽快な気持ちとなりました。
タダで家に泊めたり、様々な行事をするごとに一同が集まるということが、ある意味娯楽でもあり、日々のストレスのガス抜きであったのかも知れませんね。
モノが少なく、生きていくために重労働せざるを得ない環境で、めいいっぱい楽しみを見つけるうちに、このような生活環境・ライフスタイルが形つくられていったのでしょうね。
まだまだトピックスは大量にあります。
が、これくらいにしておきます。
本書「忘れられた日本人」 は、私たちのなつかしい暮らしぶりを思い起こさせてくれる面があったり、質素な生活の中にもたくましく、大らかに生きている姿が生き生きと描き出されている超良書だと思います。
もちろん、伝統的な日本の生活を知らない都市部の人たちにも、興味深い内容だと思いますので、皆さま、ぜひご一読ください!
超おすすめです!