12冊の本で、伝統的日本の良さ、日本人が軸としてきたものを知る!藤原正彦氏の【名著講義】では興味深い本が紹介されていますよ!
「国家の品格」などの本で著名な、数学者の藤原正彦先生は、10年以上にわたってお茶の水女子大学で読書ゼミを続けて来られました。
新入生を対象とした20名ほどのゼミは、毎年抽選となるほどの大人気だったそうですよ。毎週ほぼ1冊の本を読破し、レポートを提出、そしてゼミではその本に関するディスカッションをするのですから、なかなかにハードなはずです。
本書「名著講義」は、ゼミで取り上げられてきた本をもとに、ゼミでのディスカッション内容を本にしたといった体裁ですけど・・・まずは取り上げられている12冊の本をご紹介します。
・新渡戸稲造『武士道』
・内村鑑三『余は如何にして基督信徒となりし乎』
・福沢諭吉『学問のすゝめ』
・日本戦没学生記念会編『新版きけわだつみのこえ』
・渡辺京二『逝きし世の面影』
・山川菊栄『武家の女性』
・内村鑑三『代表的日本人』
・無着成恭編『山びこ学校』
・宮本常一『忘れられた日本人』
・キャサリン・サンソム『東京に暮す』
・福沢諭吉『福翁自伝』
・藤原正彦『若き数学者のアメリカから孤愁へ』
最後に挙げられた藤原氏の本は、当然ながら現代の本ですが、それ以外の本は江戸時代から戦後まもなくまでの本が取り上げられています。
これらの本は、学校の教科書で通り一遍学んできた史実とは一味も二味も違った、生き生きとした生々しい当時の日本人の生活ぶりや、私たち日本人が失ってしまったと思しき武士道的な精神、戦争に出向く若者たちの本音などが描かれています。
さて、ここで取上げられている本のタイトルや、藤原氏の今までの著書のタイトル(国家の・・など)から連想すると、一見、藤原氏は復古主義的、ナショナリズム的な要望を持たれていると感じるかもしれません。
けれども。
藤原氏が、そのような要望、もしくは思想を持っていると考えるのはちょっと違うのではないか、と思います。
藤原氏は、イギリス、アメリカで暮らしていた時もあり、そして数学者である傍ら、歴史への造詣も深いことが、実際に著書を読むと分かります。
私は、藤原氏が主張されたいのは、単なるナショナリズム礼賛というわけではなく、和魂洋才、すなわち「日本の伝統的な良さ、軸となるものを持ったうえで、西洋の素晴しい面を取り入れよう」ということだと思います。
江戸時代から明治になり、帝国主義に対抗するためにも日本の近代化を早急に進める必要があったこともあり、日本の伝統を否定し、西洋を無批判に受け入れすぎたことに対し、藤原氏は警告を発し続けているのだと思います。
極端に西洋化している現状に対し、私たちにインパクトを与えるため、日本の伝統を礼賛する表現を多く取られているのでしょうね。向かう先は、先述のとおり、日本という軸を持ったうえで西洋の良さを取り入れる、ということなのだと思います。
話を戻します。
拝読してみて、あ~面白そうだな、と感じた本が多々ありました。そして実際、何冊か手に取って読んでみました。本書内で学生さんが「日本に生きてきた人たちに対する見方が変わった」「尊敬や親しみを抱いた」と感じ、ご自身が変化していったということに、大いに頷けました。
教科書やテレビからだけでなく、いろいろな見方を知り、自身で感じ、考えてみることが大切だと痛感します。
そして、江戸~明治~昭和初期の人々の勤勉さなどと比べ、私たち現代人って大丈夫なのかな、今後どんな方向に進んで行くのだろう、と一抹の不安も感じますし、
逆に、このような流れの先にはまた違った、私たちには想像できない世界、案外に良い世界が広がっていく可能性もないとは言えないな、とも思いました。
本書内で取り上げられた本のうち、読んでみたものについては、また本ブログでも紹介してみます。
本書「名著講義」は、伝統的日本の良さ、日本人が軸としてきたものについて感じ取る、よいきっかけになるのではないかと思います。ぜひ、ご一読ください!