【人間関係】の視点から「うつ病治療」について語られています。-斎藤環氏の「社会的うつ病」の治し方-
興味深い本でした。
ひきこもり治療の専門家(精神科臨床医)である斎藤環氏がうつ病の治療について書かれた「「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか―」のことです。
ではここで、なぜひきこもり治療の専門家が、一見別領域と思しき、うつ病について書かれたのか?
まずは、
本書でも扱われる、最近とみに増えてきた「新型うつ病」の説明が必要となります。
曰く、「新型うつ病」とは、かつてのような欲望・感情などを含む生命エネルギー全体が枯渇したような症状ではなく、
仕事はできないけど遊ぶエネルギーが残っていたりするため、ややもすると「怠け」などと誤解されかねないようなタイプのうつ病なのだそうです。
従来と比べれば軽い症状らしいのですが、治りにくいという点が大きな特徴です。
そう言えば、思い出したことがあります。
私が以前、会社に勤めていた頃、職場の安全衛生活動でも新型うつの話題は出ていましたし、実際、そのような症状となっていた人も見ています。
その人は普段、元気な受け応えをしてくれるけれど、会社に出るのはしんどくて、欠勤・休養を繰り返していました。
まさにこちらに書かれているように、本当に一見、ふつうレベルのストレス・悩みをもって生活しているように見えました(会社生活はできる状況、という意味です)。
その人は、徐々に徐々に、ふつうに勤務できるようになっていきましたけど・・・そこまでに5年は経っていたように記憶しています。
さて、そのような新型うつ病に接するうちに著者は、ひきこもりと新型うつ病に共通点があることを見出し、本書を書かれたのです。
一般にうつ病の治療では、休養、投薬、心理療法などが行われるのですが、、、
本書では、それに加えて極めて大切な「治療のなかで、いかにして人間関係を活用していくか」すなわち「うつ病治療のなかで人間関係がどんな意味を持っているか」に焦点をあてて語られています。
本書前半では、解説編として、現代社会の分析、人間の発達理論などが語られています。
実存の問題だとか、操作主義、コミュニケーション偏重主義、コフートの自己愛を中心とした理論など、かなり深い話がなされていて、とても興味深く拝読しました。
やや唐突かつバラバラとなってしまいますが、前半で印象的だった点は次のとおりです。私が意訳していますので、文章そのままではありません。
・現代社会の人々は、生き延びること(生存)への不安から、「実存(自分は何者か、自分の人生に意味はあるのか、など)の不安」を抱くようにと変化してきている。
・現代で、個人の実存を主に支えているのは、「自分のキャラ理解」と「他人からのキャラの承認(コミュニケーション)」である。そのようなキャラやコミュニケーションだけに依存しない「実存」を、どのような形で実現していくのかを考慮する必要がある。
以下は、コフートの話で。
・人は、成長の過程で自己愛(=自分という存在が大切である)を育むことが大切である。
・日常で適度な欲求不満を持つことで、理想からイメージを修正していく、という過程が大切。
・発達の途中で、きょうだい、友人関係を通じ「自分と他人は同じような存在である。弱さを抱えた人間である」という同朋意識を育むことが大切。
などなど、あまりにも部分的に切り取ったので、全く全体像がつかめないなぁ、と反省していますけど・・・鋭い見解が書かれていますので、もしこれらにピンときたら、ぜひ本書を紐解かれると良いと思います。
そして後半は、臨床医としての斎藤氏の対応方法が語られています。
人間関係が基本テーマということで、家族との関わり方、仕事との関わり方が語られ、最後にはセルフケアについても書かれています。
最終目標は社会生活を行っていくということですから、日常で家族・会社(仕事)などと関わっていく、ということですよね。
人間関係を重視するのは、ある意味当然で、大切なことであり、本書ではその辺りの大切な点が、しっかりと書かれています。
ちなみに、後半で私が印象的だったのは、最終章の「身体性が大切」だという点です。
本書のメインテーマである「人間関係」も、いわば生身(=身体を持った)の人間同士のふれ合いですし、声楽療法という実際に声を出す手法、認知運動療法という身体イメージを大切にした手法などが紹介されていて、大いに興味を抱きました。
以前、ブログで取り上げた「身体はトラウマを記録する」でも、身体と心のつながりに着目することの大切さが書かれていましたし。
ややもすると、心と身体は分離して扱われてしまい勝ちですが、身体性、心と身体の相関については、もっともっと注目していくのが大切だな、と感じ入ります。
本書「「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか― 」は、私の知見を広げて頂けた興味深い本でした。