池上彰さんが、日々の生活に密着したものとして経済を語る!【経済学講義】
分かりやすい解説で引っぱりだこの池上彰さんによる経済学の本。
その名も「池上彰の「経済学」講義」という本があります。
本書は、2014年前期、愛知学院大学で行われた「経済学特講」を元に、2017年2月までのニュース項目を踏まえ、加筆修正されて出版されました。
文庫本で2冊構成となっており、1冊が歴史篇で、もう1冊がニュース編です。
ふつう、大学で講義する経済学というと、マクロ経済学、ミクロ経済学が頭に思い浮かびますね。IS-LM曲線だとか、国民総生産の計算式だとか、景気動向指数だとか・・何やら数式とか図式とか用語のオンパレードという・・
ところが。
本書は、いわゆるマクロ経済学、ミクロ経済学とは一線を画した、あくまでも「経済学は現場を離れて存在する学問ではないこと。日々の生活に密着したもの」として経済学を捉えて、まとめられているのです。学問的には、需要と供給曲線が出てくるくらいですね。
本書の1冊目は、「歴史編」です。
なぜ歴史なのか、それも第二次世界大戦後の歴史なのかと言うと、この、第二次世界大戦後の歩みそのものが、今の日本と深く繋がっているからです。
その割には学校であまり学びませんよね。
日本現代史=戦後史を学ぶことに大いに賛同します!
戦後史については、田原総一朗氏だと政治家の視点から、NHKなどのテレビ番組だと出来事(事件など)の視点から述べられており、この池上彰さんによる本書では経済という視点で詳しく述べられています。
ぜひ、いろんな視点から現代史を眺めてみると良いと思います。
いくつか具体的な例を挙げると・・戦後の強烈なインフレのために行なった新円への切替え、預金封鎖という荒業、GHQ指導の労働組合の奨励、財閥解体、農地解放など、それらが戦後の経済成長にいかに影響を与えたかが、本書を読むとよく分かります。
また、朝鮮戦争も、日本の経済発展のきっかけになったのは確かでしょうね。
それから。
時代は進んで、バブル期の話なども興味深いですね。
プラザ合意(裏話も面白い)、円高、不動産の値上がり、株の値上がりから、政府の総量規制による不動産バブルの崩壊、そして失われた20年への突入、この辺りの流れがたいへんに分かりやすく語られています。
私が住んでいるような地方でも、何となくバブルの浮かれた話を聞いたことがあるような気がしますし、あれよあれよという間に世の中の状況が変わっていったのも記憶しています。
こうして全体の流れを読むことで、それらが繋がっていくように思います。
そして2冊目が「ニュース編」です。
こちらは、池上さんの真骨頂とも言えるジャンルでしょうね。
長年ずっと尾を引いている「石油をめぐる地政学」的な話、近年話題のシェールガスの話、これも記憶に新しいリーマンショックの話、アベノミクスの話、その一環としての金融政策の話など、具体的で興味深かったです。
さらには、そのようなマクロな話から、スターバックス、マイクロソフト、アップル、アマゾンの話など個別の話(ミクロ経済学的な話)などもあり・・
池上さんって、NHK時代に現代史本を書かれているように、ベーシックな知識を持たれたうえに、テレビや大学講義などで様々な準備をするうちに、さらに広範な知識を身に付けられたのだなぁ、と感じます。
とにかく知識幅が広く、そしてこんなにも分かりやすく説明できることから、しっかりと内容・ポイントを理解されているのだと思います。
私は一応、マクロ経済学、ミクロ経済学を学んでいますが、多分それらは、経済政策の策定側、企業経営・分析側の視点での理論ではないかと思います。
現代社会で切っても切り離せない経済の動向、お金の動向というものの具体例との結びつきについては、案外に、大学の経済学ではなかなか学べません。
アカデミックな経済学をベース知識として学ぶのは、大いに有用ですけど・・このような実務的な経済学も一緒に学ぶことが大切だと思います。
ご興味を持たれた方は、ぜひご一読ください。