認知心理学の視点から:TOEICで問われる「英語の熟練度」について考察してみました。
TOEICという、特にビジネス界でよく、英語力の指標として用いられるテストがありますね。
このTOEICテストですが、前半は45分間のリスニングテスト100問、後半の75分間はリーディングテスト100問、すなわち2時間で200問もの問題を解く必要がある、なかなかにハードなテストです。
私も何度かTOEICを受けたことがあるのですが、普段あまり英語を使っていないため、このテストが終る度に頭が朦朧としていました。
さて、今回は、認知心理学的な見地からの、「TOEICテストで問われているもの:リスニング問3,4」について、書かせて頂きたいと思います。
ここでちょっと、
TOEICテストの様式(リスニング:問3,4)について書かせて頂きます。
TOEICには、リスニングの大問題が4問(各々複数の問題があり、小問合計100問)、リーディングの大問題が3問(同様に、小問合計100問)の、大問題合計7問(小問レベルで200問)から成り立っています。
このうち、TOEIC問3,4については、それぞれ13,10個の英会話文・英語アナウンス文がスピーカーから流され、各々の文章に対して小問が3つ程度問われる、という形式になります。
すなわち、問3が39問、問4が30問に答える必要があるのです。
そして、問題用紙には、「設問と解答の候補3個 ”のみ”」 が印刷されています(問題文である会話・アナウンスは印刷されていません)。
受験者は、スピーカーから流れてくる「英会話、または英語アナウンス文」を1度だけ聴き、各小問の問いも1度だけ聴き・読んだうえで、「紙に印刷された選択肢を読んで解答を選ぶ」ことになります。
要するに、
一方で、英語を「聴いて」理解すること、
もう一方で、英語(解答候補)を「読んで」理解し、解答を選択する、
という2つの作業を並行して行わなくてはならないのです。
これが、小問換算で69問も続くということは・・・
やってみられた方は多分そうだと思うのですが、最初は「こんなもの、できるわけないじゃん」と思われるのではないでしょうか。
まあ、私自身がそうだったのですけど。
※問3,4以外の形式については省略します。
さて、話は、認知心理学の話に移ります。
認知心理学では、「記憶」や「思考(処理)」のメカニズムを解明するために、実に多くの実験を考え出しているのですが、その1つに「二重課題法」というものがあります。
これは、文字通り、二つの課題を同時に行わせる、という実験です。
例えば、
・一方で文章を聴いた後、質問に【はい/いいえ】で答えながら、もう一方では2桁の足し算を行う
・一方で文を読み質問に答えながら、もう一方では読み上げられる単語をできるだけ正確にかき取る
・一方で次々と音読しながら、もう一方で文の末尾の単語を1文につき1つ覚えておく
などの作業を行うのです。
この実験により、人間には、短時間、記憶を保持できる仕組みがあること、その記憶には一定の容量があり、負荷が大きくなると処理に時間がかかったりミスも増えていく、ということが分かるのです。
さて、二重課題法の話と、前述のTOEICを総合した話となります。
問われる形式は違えど、この2つって、よく似ていると思いませんか?
TOEICでは、「一方で聴いた英語の内容を理解・保持しながら、もう一方で解答候補を読む・解答を選ぶ」という、まさに二重課題法を応用しているように思います。(二重課題法よりは、若干負荷が少ないかもしれませんが。。。)
※ちなみに、TOEICでは、メモ書きはできません。頭で保持する必要があります。
英語に習熟できていない間は、英語を聴き理解する、英語を読み理解することの両方に、脳内の資源が消費され、容量オーバーを起こし、とてもその速度に追いつくことができません。
が、そろばんの熟練者は、日常会話をしながらでも計算問題を解くことができる、という事例や、上記のような問題でも日本語ならば容易に解けそうだ、ということから考えると、
英語に習熟する、自動的に処理できる、いわば技能のように体得することができれば、この3,4問についても全問正解できるようになるということなのです。
TOEICの問題が、どのような経緯で作られたのかは定かではありませんが、この、知覚心理学的な知見を活かしているのではないかと思いました。
※ちなみに、この二重課題法に関しては、「外国語学習」という観点で、結構心理学実験されています。
TOEICテストにおいては、問3,4の69問=全体の35%近くがこの形式の問題であり、ここでしっかりと得点できないと高得点にはなりません。
このことは、裏返して言うと、
英語を聴きながら、読み、情報を処理する、という二重課題法的な処理を迅速に行うこと、すなわち技能的に習熟しているかどうかが、最終的に(=高得点を取れるかどうかの分かれ目)に問われているということなのです。
巷には、短期間でTOEICで高得点を取るためのテクニック本が溢れていますし、実際にテクニックを駆使して高得点を取られた方もいらっしゃるのだと思いますが、
TOEICでは、上記のような、技能的な習熟(=あたかも母国語のように、読み、聴く処理に認知的な資源を、それ程使わなくて済むようになること:自動化処理です)が問われていることを考えると、
テクニックだけではTOEIC高得点を取ることはなかなか難しいな、というのが私の理論的・経験的な実感です。
語学の上達とは、そろばんの熟達者、ピアノの演奏家のように、何度も何度も反復することで身体に染み込ませることが大切なのだろうと思います。
そして、その反復の過程で、シャドーイングとか、リピーティングなどの有用な練習法を選択することが大切なのだと思います。
さらに言えば、限られた時間内で、日本国内で英語を学んだ私のような者は、到達したいレベル(ネイティブのレベルではなく、特定のビジネス分野で通用する英語力を磨く、などです)をしっかりと見定めることが大切なのでしょうね。