経済人類学などからの斬新な切り口が興味深い! -栗本慎一郎氏の「パンツをはいたサル」「パンツを脱いだサル」-
今回は、経済人類学なる学際的な学問領域の研究者:栗本慎一郎氏により1981年に出版された「パンツをはいたサル」、およびその完結編という位置付けの「パンツを脱いだサル」(2005年出版)についてご紹介させて頂きます。
サル?
しかも、パンツをはいた/脱いだ?
何だそれ?
と思われるかもしれません。
タイトルとなっている「パンツをはいた/脱いだサル」とは何なのか?
もちろんこれは、「人間」のことを指しています。
それでは、「パンツ」とは何か?
これは、道具、言語から始まり、民族、宗教、国家、法律など、人間が生存していくために、長い歴史の道程で身に付けてきた「制度や仕組み」のことです。
栗本氏は、マイケル・ポランニー氏の経済人類学(大まかに言うと、贈与交換を含めた人類学的な広い視点から経済現象を研究する学問)、バタイユ氏の蕩尽論(人間は常に過剰を作り出し、それを定期的に消尽してきたとする説)、動物行動学的な視点(人間を、動物の一種として、その特徴や進化の形を分析)などに依拠しながら、パンツをはいた/脱いだサルである「人間」と「社会・経済」を分析します。
もう少し言い換えると、本書内では、
動物の一種であった「人間(ヒト)」の祖先が、動物界から見て極めて特殊な進化をしていく過程で身に付けた様々な「パンツ(上述)」や、攻撃・拡大などを繰り返してきた歴史などを踏まえながら、最終的(あくまで、現代から見て、一番直近という意味で)に選び取った市場社会というものの特徴、問題点(というよりも「危機的状況」という表現となっています)が分析されているのです。
では、危機的状況とは何か?
貨幣が最上位の価値となり、すべてを支配する状況のことです。
その性質上、拡大(自己増殖)を志向する必要があるけれども、その限界も見え隠れしている現代の状況のことです。
この状況に対する処方箋は何か?
ここでは詳しく書きません。読んでみてのお楽しみですが、本書の中では、栗本氏の考える解決の方向性、考え方の糸口が書かれています。
「パンツをはいたサル」は、発刊後30年以上経っているのですが、今読んでも斬新な切り口ではないかと思います。
栗本氏の言われる、人類の進化の過程で身に付けてきたパンツ(=制度や仕組み)と、覆い隠された本能的なもの、歴史的なものをしっかりと考慮すること、つまり理性や理論では対応しきれない視点を持って、社会、人間について構想することは大切ではないか、と思い至りました。