実践と学問を修めた魚川氏が語る「ゴータマ・ブッダの説いた道」 -仏教思想のゼロポイント-
今回は、魚川祐司氏による「仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か」についてご紹介します。
まずは、この本の著者:魚川祐司氏について。
魚川氏は大学で西洋哲学、大学院で仏教学を専攻され、2009年末より足掛け5年間、ミャンマーにてテーラワーダを中心とした仏教の行学(実践と学問)を修してこられた方です。バランスの取れたご経験をされている方、と言えるかもしれませんね。
この本では、パーリ経典(古層のもののみならず、新しいものも含めて)を主材料とし、現代の実践者たちの意見や証言も参照しながら、「ゴータマ・ブッダの仏教」を考察していくという立場を取られます。
ご経歴やこの前提を見て、この本の主張は、いわゆる上座部仏教が基礎になっているのではないかと思います。
全体として言えるのは、現代日本などで一般に言われている、いわゆる俗世間の人間に向けた「人間として正しく生きる道」と、上述の立場から見た「ブッダが説いた道」との違いが際立っているな、ということです。
そもそも、魚川氏も、
ゴーダマブッダの仏教を「(一般的に言う)人間として正しく生きる道」といった理解に回収してしまうことをやめた時に、はじめてその本当の価値は私たちに知られることになる。
とも書かれていますしね。
では、ブッダのとなえる仏教の目的とは何か?
解脱して涅槃を目指すことです。
ブッダは、労働を否定し、生殖を放棄するという立場を取っています。働いてはいけない、結婚・交際などもしてはいけないということで、一般的な社会の通念・価値とは大きく異なったものです。
第一章でまず、このような立場について「絶対にごまかしてはいけないこと」として明記した後、第二章以降で「ブッダの説いた仏教」として、縁起、四諦、脱善悪の倫理、無我と輪廻、解脱と涅槃などについて、ある意味冷静に、極めて論理的にその内容を説明してくれています。
繰り返しとなりますが、この本を読むと、曰くゴータマ・ブッダの目指したという仏教が、いわゆる煩悩や欲望に満ちた俗世間とは相いれないと感じます。ブッダ入滅数百年後、一般大衆にも仏教の教えを広めようということで大乗仏教が興隆したのですが、この大乗仏教ともかなり異なったものであることも分かります。
このような、初期の仏教と言われる教えを、相互に関連付けながら理路整然と語ってくれる本書を、一度読んで見られるのはいかがでしょうか。参考になると思います。
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