博学の小室直樹氏による「田中角栄の遺言」は、角栄氏のことはもちろん、デモクラシーなどの教養も身につきます!
驚くほど多く出版されている田中角栄氏の本ですが、その中で印象に残っている本をご紹介します。
それは、小室直樹氏の「田中角栄の遺言―官僚栄えて国滅ぶ」という本です。
すでに新刊では購入できない本ですが、古本、または図書館で手に取ることが可能ではないかと思います。
この本の主張を端的に言うと、
・田中角栄氏こそ、現代日本における唯一人の立憲政治家であり、
デモクラシー政治家である。(補足:角栄氏は、33もの議員立法を成立させた)
・一方で、「数は力、数はカネ」という金権体質を持っていたことも事実である。
・「水清ければ、魚棲まず」というように、
あまりに水がきれいだと大きな魚は棲めない。
同様に、デモクラシーを維持するためには、ある程度の汚れが必要なのだ。
・田中角栄氏は、件の裁判で葬られたが、そのやり方・経緯こそ、
「デモクラシーの死」を意味する。
・東西冷戦時代は終わり、先の見えない時代である今、
胆力のあるスケールの大きな政治家の出現が期待される。
官僚・役人だけでは、激変に対処することはできない。
といったところでしょうか。
このように簡単に要約してしまうと、いかにもあっさり、という感じなのですが、そこは膨大な教養を持たれる小室直樹氏のこと、
デモクラシーの定義、官僚について、金権政治について、政治家の「道徳」とは何か、など日本、西洋の史実や法律などの知見を縦横無尽に駆使しながら、存分に語られています。
一文章の長さは短めで、文体はシンプルですが、半端ではない語彙数と、盛り込まれた膨大な内容は、読み応え十分です。
今までに何冊か小室氏の本をご紹介させて頂きましたが、小室氏の、このようなスタイルこそ、教養書が目指すべき形ではないかと、思います。
さて、再掲的にはなりますが、私が印象に残った点です。
政治における最高道徳とは「国民の経済生活を保障すること」である。先の記事「田中角栄の100の言葉」にも書かせて頂きましたが、国民が食えるようになることを第一義とした角栄氏の考え方との一致点があります。
資本主義の精神が未熟な我が国では、角栄氏が行なったように、カネを手段として使っていくことで権力を掌握し成り上がっていくことが必要であった、との小室氏の主張には、私自身、微妙な感想を持っています。
が、それでも、著者による「最も適した腐敗の度合いを研究しなくてはならない」という、一見不思議な主張は、イチかゼロということではなく「中間地点にこそ真理が宿っている」という角栄氏の至言同様、単なる理想論ではなく現実を踏まえた着地点=真理なのだろうと思います。
田中角栄氏を軸に、広い視野でいろいろと考えさせられるこの本は、月並みな表現ですが、為になります。