自分にとって大切なものと「つながることの大切さ」を実感します ‐岡田尊司氏の「生きづらさ」を超える哲学‐
【哲学】というタイトルがついていますが、一般に言われている哲学の本ではありません。
精神医学・心理学の色合いが強い本だと思います。人生哲学の本という言い方ができるかもしれません。
この本「「生きづらさ」を超える哲学」の著者:岡田尊司氏は精神科医です。この本の出版時は京都医療少年院に勤務されていました。そして現在は、クリニックを開催されています。 多くの本を出版されているので、書店などでも見かける方も多いかと思います。
まずはこの本の概略を書かせて頂きます。
医療少年院等で数々の人々と向かい合ってきたきた岡田氏は、科学的アプローチや科学としての医学だけでは、人は救われない場合がある、と本書の「はじめに」で書かれています。
困難を乗り越えるためには、科学的合理主義だけでは限界がある、合理的な理屈を振り回してみても、気持ちを汲んだり助けにならないこともある、とも言われています。
これが現場にて医療に携わってきた岡田氏の実感するところなのでしょうね。
この本では、各章のテーマごとに、いわゆる著名な哲人・文人たち、例えばショーペンハウアー、ヘルマン・ヘッセ、ジャン=ジャック・ルソー、ハイデガーとアンナ・ハーレント、エリクソン、ドストエフスキーらの人生が紹介されています。
そこには、親に見捨てられた人生、親せきや牧師に預けられた人生、過酷な流刑生活、流浪の人生など、壮絶とも言える人生が語られています。すぐれた作品を残した彼らの人生が、こんなにも複雑で困難であったことを、私自身、この本を読むまで知りませんでした。
そして、各章ごとに、そのような哲人・文人の物語同様に、岡田氏が現場で向いあった人々の言いえぬ人生の様子が重なり合い、語られます。
冒頭に書かせて頂いた通り、そこには、科学的合理主義的な面ではなく、生身の人間のぶつかり合いがあります。
本書において、「昔」の哲人・文人の人生や、「現代」の(岡田氏が向き合ってきた)人々の人生が語られることで、古今東西、我々は変わらず、激動でスッタモンダの人生を送ってきたことを実感しました。言い方は変かも知れませんが、我々の人生で遭遇するであろう数々の困難も、(多くの人々が遭遇してきたという事実において、)決して珍しいものでは無く、多くの人々がそうしてきたのと同様、乗り越えられるものに違いない、という勇気のようなものをもらえたように思います。私自身の視野が広がった、という言い方ができるかもしれません。
この本では、即、実用的な処方箋が与えられる、ということはありません。
「自分にとって大切だと思えるもの、 -- それは親子関係、支えてくれる周囲のみならず、「自身の心の中だけでの存在」もあり得ます-- とつながること」や「自分というものの有限性を自覚し、バランス感覚を持って生きること」や「自律し自分らしい人生をつかみ取っていくことの大切さ」などを、数々の人生を語ることにより考えさせてくれる本ではないかと思います。
アマゾンでは新刊で購入できないようですが、古本、図書館などで読んでみられるのはいかがでしょうか。