「信念」が誤りだったと気づくとき、人はどんな行動をとるのか? 「認知的不協和」の考察が興味深い。【予言がはずれるとき】はおすすめですよ!

 

心理学でよく登場してくる「認知的不協和」理論とは、どのようなものとお考えでしょうか?

 

心理学の概説書などでは、

ある一つの信念が誤りであること、すなわち一つの信念Aともう一つの信念Bが、互いに不協和であるとき(=矛盾しているとき)、その人にとってこの不協和な状態は耐え難いものである。

このため、その状態をより協和的(=矛盾の無い状態)に近づけようとする動機が働く。

と説明されています。

 

具体例で示しましょう。

ある人が「タバコを吸っている(信念・認知要素A)」けれども、同時にその人は「タバコが有害であることと知っている(信念・認知要素B)」とき、その人の中で認知的不協和が起きています。

もちろん、その人が「タバコを止める」ことが不協和を解消する有力な手段ですが、これが難しい場合、その人は「タバコが有害である」との認知の方を修正しようとします。

具体的には「タバコはリラックス効果がある」とか「やせることができる」など、タバコを吸うことへの肯定的な要素を取り入れるようになります。

まあ、タバコの例ならば分かりやすいですけども、今回ご紹介する書予言がはずれるときで取り上げられているのは、

ある信念(ここでは、世界の破滅を予知したこと)が誤りであることが明確になった(予知がはずれたこと)後、その集団の人々はどういった行動をとったか?

ということです。

 

さて、人々の行動は、一体どうなったのでしょうか?

 

その集団は、さらに熱意をもって活動を行うようになる、というのです。

 

私は、心理学の概説書でこの説明を読んだとき、

「いやいや、活動自体を停止するでしょう」とか「予言は先延ばしになった、などの理由を主張するようになるでしょう」と思いました。

「さらに熱意をもって活動する」との主張に完全同意できませんでした。

 

ただ、このような現象(予知→外れる→さらに集団活動を熱心に行うこと)は、歴史的に度々見られたのだそうです。本書の前半では、歴史的な事実を幾つか取上げて解説されています。

そして、著者のフェスティンガーらは、ちょうどその頃、このような予知を行っている集団に潜入し、観察を行ったのをまとめたのが本書予言がはずれるときなのです。

※この後、フェスティンガーは、認知的不協和理論をまとめ上げ、世に問いました。そのための重要なきっかけ、裏付けとなったのが本書です。

 

本書内で、努めて公正に取られた記録は圧巻で、臨場感に溢れるものです。

結局、予知を行った人(キーチ婦人という仮名)は、その後も信者に対し新たにメッセージを送り続けている、ということで活動を継続されていますし、何よりも予知したことが起きるとされた日の直後、集団の人々が熱心に活動するとの現象が見られたのです。

そういった意味では、歴史的にみられた「予知のはずれたとき、かえって活動を熱心に行う」現象は起きたのです。

ただ。

ここでは、そのような現象が起きるためには、もう少し詳しい要件が必要だと書かれているのです。

それは。

1)そのことに「強い」確信を持っていなければならない。

2)予知を流布している、などもはや取り消し難い行動を行っている。

3)この予知が誤りだと特定できる。

4)信念を持つ個々の者は、誤りが証明された後、社会的支持を得なくてはならない。

というものです。

まず、上記1~3までを補足させて頂くと、実際にこの集団を強く支持していない人、すなわち「予知に疑いを抱いていた人」は集団から離れていきました。

そして、予知について「少しでも予知を支持するような事実を探す(=予言がはずれた後、拠点に訪問してくる人がメッセンジャーではないかと期待していました)」とか「大洪水は守護存在によって食い止められた」など、支持的な証拠を探したり、認知を修正・正当化しようとする試みがなされていたのです。

要するに、先に私が思った「活動停止すること」や「認知を修正すること」などの試みはあったのです。

冒頭で、認知的不協和の結論っぽく書かれているのは、「信念が強い人」かつ「認知の修正・正当化の試みが難しい場合」で起きることなのです。

 

さて、話を戻し、上記4についても補足をします。

これは要するに、「同様の信念を持つ人で、周りを固めること」、すなわち「同じ信念の人々が、物理的にその場に居ること」です。

予言失敗後、熱心に活動したのは「予言がはずれたとき、予言者のキーチ夫人らと同じ場所に居た人たち」でした。

一方、予知の頃、違う場所に居た人々のほとんどは、この信念を放棄または疑いを深めています

※一人だけ、後日この集団の重要人物と会い、信念を再起しています。

 

まだまだ書けることはありますが・・・以上が概要です。

これは凄い記録ではないでしょうか。

と同時に、認知的不協和の意味について、より詳しく分からしてくれる良書だと思います。

本書予言がはずれるときは、厚い本ですが、読む価値がありますよ。

 

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