「時間厳守」は明治時代に作られたものだと知る! -遅刻の誕生-

 

遅刻の誕生?

何だそれ?不思議なタイトルだな。

という声があるかも知れませんね。

 

今回ご紹介する本「遅刻の誕生―近代日本における時間意識の形成」は、実は明治時代になって初めて日本に本格的に登場した「遅刻」の概念を、学者的な視点で大真面目に分析した本なのです。

幕末、明治初期の日本人は時間にルーズ?

 

焦点となっている時代は、江戸時代から明治、大正、昭和、そして現代です。特に、幕末から明治時代に焦点を当てていると言えますね。

この本は、以下の印象的な記述から始まります。

1857年から2年間、長崎海軍伝習所に滞在し、西洋式の操船技術と科学技術の知識を日本人に伝えたウィレム・カッテンディーケ氏の「滞在日記抄」の「日本人の性癖」の一節です。

そこには、「日本人の悠長さといったら呆れるくらいだ」と、文句が書かれています。

実例として、

・修理のために満潮時に届くよう注文したのに一向に届かない材木。

・工場に一度顔を出したきり二度と戻ってこない職人。

・正月の挨拶回りだけで二日を費やす人。

続いて、「日本人は無茶に丁寧で謙譲ではあるが、色々の点で失望させられ、この分では自分の望み(職務)の半分も成し遂げないで此処を去ってしまうのじゃないかとさえ思う。」とまで書かれています。

これは彼一人の悩みではなく、幕末から明治維新以降に近代日本を建設するために来訪した外国人技術者にとって、ほぼ共通の悩みであったそうです。

時間を守らない、時計の時間とは無関係に物事が進行する、伝統的な日本人の仕事ぶりについて、しっかりと書かれているのです。

 

ここでちょっと、予備知識として、それまでの日本人の時間概念や西洋の状況についてご紹介しましょう。

明治5年までの日本人は「不定時法」で時間を計り日々の生活を営んでいました。

それは、昼間の時間と夜間の時間をそれぞれ等分して時間を計測する方法であり、季節によって時間の長さが変わってくる点が特徴です。

そして、城下等の庶民は、不定時法で昼夜の時間を各6等分した時刻に鳴らされる鐘の音を目安にしていましたので、(変動する)約2時間を表す一刻の時間を基本としていたのです。

一方で西洋では、日本より一足先に、18世紀の産業革命後、機械の始動時間に合わせて働くことになっていました。そして、19世紀の鉄道の普及とともに定時運行が進んでいき、時間厳守という観念がかなり定着していたのです。

 

さて、明治時代の日本の状況に戻りましょう

 

その後の日本では、急速に時間厳守の観念が定着していきました。

明治5年に最初に鉄道が開通し、鉄道複線化に伴い、運行本数も増大していきました。そして何と明治末年には通勤電車があったようなのです。現代と同じような状況が急速に整備されていったのです。

そして、大正時代以降、工場ではテイラーによる科学的管理法が浸透していき、教育現場、さらには家庭でも時間規律、時間の節約が唱えられていきました。

こうした流れで、概ね、鉄道、工場、学校、軍隊では速やかに定着し、事務部門などでは遅れて定着していきました。個人や家族の意志に委ねられていた時間の流れが、「時間規律」の下に再編成されていったのです。

 

本書を拝読して思った3つのこと

 

私はこの本を拝読し、3つのことを思いました。

1つ目は、我々が「当たり前だ」「ずっと昔からそうだ」「我々の伝統だ」と思っていることも、実は比較的新しい時期に海外から移入されたり、国策として推進されたことにより身に付いたものもある、と教えてくれます。特に、明治維新後や第二次世界大戦後に新たに導入されたものが多々あるでしょうね。

2つ目は、「暇」を否定し「勤勉さ」が称賛され、ゆとりを奪う現代の効率化社会が、人びとのどこかに不安や焦燥を抱かせているのではないか、ということです。

3つ目ですが、私はこの本を読んでいる途中で、チャップリンの「モダンタイムズ」やエンデの「モモ」を思い起こしました。明治以来、機械(工場)や会社や鉄道などの時間・規律に人間を従わせてきた歴史を振り返ってみて、彼らの慧眼に感服するとともに、我々が本当に豊かな時間を過ごせているのか、豊かになっているのか、と考えさせられました。

このような本を読むことで、自分自身を「相対化」、すなわち、一歩外へ出て物事を俯瞰して眺めることで時間規律というものが、我々が過去からずっと持っていた本来の性質ではないことを思い知る、良い機会になるのではないでしょうか。

 

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