社会や個人の内面に「規律が生まれる仕組み」を明らかにする -フーコーによる「監獄の誕生」-

今回は、石田英敬氏、貫成人氏の本のなかでも取り上げられてきた「フーコー」の代表的著作「監獄の誕生―監視と処罰」についてご紹介します。

本書では、冒頭より中世以降の様々な監獄などの口絵や図版が綴じられていますので、日本語タイトル通り、ほぼすべて監獄の歴史について書かれた本だと思われるかもしれません。

けれども。

本書の主題は、監獄の歴史に限定されるものではありません。

本書の主題は、監視・処罰・矯正などを実行する一番顕著な施設である「監獄」について考察することで、家庭、学校、病院、工場などの、ある意味、監視・管理社会とも言える現代社会の本質にせまることにあります。

原書の正式なタイトルは「監視すること、および処罰すること」であり、日本語版で主題となっている「監獄の誕生」は副題なのです。

本書の中で特に印象に残るのは、やはり「一望監視施設:パノプティコン」ではないかと思います。

ジェレミー・ベンサムが考案した監獄「パノプティコン」とは、現代の「生の権力」の仕組み、「規律化」の象徴とも言える建物のことです。

 

パノプティコンは、どのような構造なのか?

・周囲には、(上から見て)円環(ドーナッツ)状の建物があります。ドーナッツにあたる部分に被拘置者が入ります。

・中心(ドーナッツ中心の中空部)には、監視塔を配置します。

・被拘置者が入る建物は、独房に区分けされます。
 独房には内・外にそれぞれ窓が付けられ、外から光が入り込み、監視塔からは各独房がよく見渡せます。

・一方で独房から監視塔がよく見えないように、よろい戸を付けたり仕切り壁などが付けられます。

※パノプティコンの実際のイメージは、Wikipediaの記事(リンク先)が参考になると思います。

この施設の特徴・ポイントは、要するに、

円環状の建物にいる被拘置者は、監視塔から丸見えなので、監視されていると思う。

一方で、被拘置者から監視塔の中はよく見えない。

それゆえ、 --特にここがポイントなのですが-- 被拘置者は、「見られている・監視されている」との意識付けがされてしまう。

また、監視者は、監視塔からは周囲をしっかり見ることができるが、自身が見られることはない。

という【仕組み】を作っていることなのです。

 

内面から規律が生まれる仕組みを作る

そうすることで、被拘置者は「いつ見られているかは分からないが、いつ見られてもおかしくない」という居心地の悪さを感じることになり、

本人の意に反しながらも、いつ見られても困らないよう、自身の行動を制御する=規則に従うという「規範」が内面に生じてくることになるのです!

極端に言うと、監視する側は、誰が行使しても良い、より少ない人数でより多くの人を管理できる仕組みなのです。

「規律が人々の内面に生まれるような仕掛け」「仕組み自体が権力の本質である」ということなのです。

さて、パノプティコンの考察等を通じて、フーコーによって明らかにされた「生の権力」「規律の仕組み」は、先述のとおり、現代の学校、会社などにもしっかりと組み込まれています。

具体的には。

学校だと、制服(ちなみに、軍服がモデルです)、校則(身だしなみ、時間厳守)、教室やグラウンドでの号令など、

会社の工場だと、厳しい規律、標語の唱和、ラジオ体操など、

様々な場面で身体性を通じた規律の仕組みを発見できます。

監視の仕組みという意味では、会社の事務所などの「上司が部下を見渡せるような机の配置」なども典型例ですね。

昔のような、外から見て分かる処刑のようなものではなく、形や仕組みを構築すること自体が、規律を生み出しているのだと言えるのです。

これらの規律により、人々を一定の枠にはめ込み、目標に向かって一致団結する、生産性を上げるという点で大きな成果を上げてきたのは事実です。

が、同時に、近年 -1980年代くらいからでしょうか- これらの規律が崩れていっているのも確かだと思います。多様化してきた、といっても良いかもしれません。

※現在は、管理の仕組みが、規律型からコントロール型(データ、知識型)に移行しつつあるようですが、それはまた別の機会に書かせて頂きます。

まとめ

フーコーらの考察により、規律型(、およびコントロール型)の管理の仕組みが明らかにされ、そして現代社会はそのような管理機構のもと、組み立てられていることも事実です。もちろん、すべてとは言いませんが。

それゆえ、この枠組みの外へ出る(アウトロー)ことは、 -完全に外へ出ることは- ほとんど不可能なことかもしれません。

完全に枠から外れること=生活が全く成り立たない、ということであり、枠から外れるのではなく「ずれる」ことが現実解のようにさえ思えます。

(それ以前に、枠組みの外へ出ること自体に、どれほどの意味・有用性があるのか、という議論もあるかも知れません。わざわざ生活をリスクに晒すことになるわけですから。)

フーコーを読むことは、我々が従来、常識と見なしていることを覆し、自身を相対化し、社会の見方を相対化してくれる、色々と考えるきっかけを与えてくれる良い機会になるのではないでしょうか。

フーコー入門書として、貫成人氏の「フーコー―主体という夢:生の権力」も参考になりました!

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